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4月の黒田日銀総裁退任で必ず起きる市場の地殻変動。金融政策変遷の歴史分析で見えてきたアフタークロダの新時代=山崎和邦

日銀が配慮しなければいけない3つのこと

日銀が配慮する背景は大きく言って3つある。

1)インフレに対する国民の感情である。そのために、政権から日銀に対して政策修正の要請がかかる。日銀は日銀法によって設立された株式会社であるが、1983年に上場された上場会社である。そして財務大臣が55%の株主である。したがって、財務省の子会社であるということになる。必ずしも独立性は保証されていない。株主構成から見て、財務省の子会社だからだ。インフレ率が米国でピークアウトしてもFRBの警戒感は続き、FRBの利下げは来年以降になることもあり得る。したがって、過度の円高にはなりにくい。その場合、日銀が今年中に政策変更を進めやすくなる。

2)今年は世界経済の大幅な減速が予想される。景気後退になれば、通常は引き締め緩和になるはずだから、政策変更はやりにくくなる。年内の政策修正の機会を失う恐れもある。日銀は修正機会がなくなることを恐れて、早めに景気後退局面で緩和を解除してしまったという失敗例がある。先述した福井総裁の06年の例である。

3)本来、10年物国債は市場で決まるのが望ましい。日銀はこれを低く固定している。上限を0.25から0.5%へ修正した。ところが、実勢では0.5をはるかに超えた日があった。そして17日・18日の政策決定会合で現状維持、利上げは繰り返さないということで、また株は600円上がって長期金利は下がった。

このように「日銀トレード」と言われる為替や債券や株の動きがある。日銀はこれらを見て、市場とのバランスを見ながら進めていく。いわうる「市場との対話」である。三重野はこれを一切しなかった。そこに彼の大きな誤りがあり「失われた13年」をつくった。二度とそういうことはしないと思う。

長期金利は出口戦略が非常に難しい。本当は市場がリードするのが正常であるが、日銀は禁じ手を破ってまでも、主目的を遂げようとしたところに黒田さんの力強さもあったが、無理もあった。したがって、このことだけは国債市場で損失を回避するための売り圧力が強烈に生じるから、突然実施するしかない。市場参加者は次も突然上げるのかという疑心暗鬼になってしまい、長期金利上昇を抑えるために。日銀は国債の元本を上げなければならないから、国債購入は異常に膨張してしまう結果になる。したがって、次期日銀総裁は長期金利のコントロールはやめて、市場がそれを動かす世界に戻したいはずだ。

問われる日銀の「市場との対話力」

日銀総裁交代後の最初の政策決定会合は4月27日・28日である。市場との対話力が欠かせない。為替介入を担当する財務省財務官(黒田総裁は以前はそれを担当していた)は、資金に限りがあるため、サプライズによってできるだけ少ない金額で大きな効果を上げることが重要である。昨年10月、財務省の財務官はいきなり1ドル150円前後で介入をして、サプライズによって市場を見事に反転させた。

黒田総裁はかつて為替相場介入の責任者である財務官を務めていたから多少はその傾向があり、それが良くも悪くも大きく株式市場を動かした。特にアベノミクスの青年期相場の最中では「黒田バズーカ砲」という異名をとり、株式市場をサプライズさせて好影響を与えたことがある。しかし、日銀総裁はきめ細かな市場との対話力が必要である。模範はパウエルFRB総裁の前任者ジャネット・イエレン女史である(現在の米財務長官)。彼女は、少しも市場に動揺を与えずに見事に超金融緩和からの脱出をやってのけた。トランプも「イエレン女史は良い仕事をした」と言っていたが、民主党から選ばれたFRB議長だから就任と同時に直ちに退任させた。

なぜ黒田政策は失敗したのか?

日銀総裁の交代を契機に日本の金融政策が変わる可能性がある

10年弱にわたって一貫した金融緩和を進めてきた黒田総裁の後任を、岸田政権は3ヶ月以内に決めることになる。市場関係者がこれに注目している。1月11日に公表された「生活意識に関するアンケート調査」は日銀が行っている調査であるが、これによると昨年後半の6ヶ月間で国民の景況感や暮らし向きが大幅に悪化したことを示している。

10年前にはノーベル賞受賞者のクルーグマン教授やFRB前々議長だったバーナンキ教授が「日本銀行はリフレ政策をとるべきだ」ということを主張していたし、また10年前の経済学者は軒並み黒田総裁のリフレ政策を支持していた。ところが、金融緩和の拡大を繰り返しても「2%インフレ目標」は達成できなかった。黒田総裁の政策を強く支持していた経済学者たちは完全に間違えたということになる。正直に言えば、筆者のそのうちの一人に入る。

「異次元緩和」と言われたほどの巨大な金融緩和を拡大して、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)の購入額の拡大を行ってマイナス金利を導入し、長期金利をコントロールするというあらゆる手段を行ってきた。黒田総裁が就任直後に「できることは何でもやる。躊躇無くやる」を言動一致で一貫してやってきた。しかし、結果的には失敗に終わったと言っても良い。

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