いま水面下で確実に進んでいる基軸通貨転換に向けた動きについて解説する。人民元の使用が増えているようだが、人民元が基軸通貨になると決まったわけではない。いつになるかはまだはっきりしないものの、将来は基軸通貨としてのドルが全面的に放棄され、ドルとは異なる通貨が基軸通貨となる多極型の決済システムに移行する可能性が極めて高くなっている。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
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確実に進む基軸通貨の転換
人民元の使用が増えているようだが、人民元が基軸通貨になると決まったわけではない。
周知のように、ロシア軍のウクライナ進攻以降、世界経済の基本的な枠組みの転換につながる大きな変化が起きている。ロシアに対する厳しい経済制裁にもかかわらず、ロシアのエネルギーや食料の輸出は逆に大きく伸びている。ロシアの中国に対する石油輸出はウクライナ戦争前の8倍に、またインドへの輸出はなんと33倍になっている。
こうした急増の理由のひとつは、ロシアが約3割のディスカウントで石油を販売しているからだが、インドはこれを絶好の機会として利用し、輸入したロシア産石油を他の石油とミックスして、ロシアから全面的に禁輸しているヨーロッパに輸出し、大きな利益を上げている。現在石油の価格は高いので、掘削コストの安いロシアは3割のディスカウントでも利益は大きい。インドはそれを利用して儲けているが、これはまさにウインウインの関係だ。
そうした状況なので、ウクライナ戦争後ではロシア、中国、インド、そして対ロシア制裁に加わっていないグローバルサウスやBRICS+と呼ばれる国々の間では、ドルを決済通貨として使う必然性が急速に薄れつつある。
いつになるかはまだはっきりしないものの、将来は基軸通貨としてのドルが全面的に放棄され、ドルとは異なる通貨が基軸通貨となる多極型の決済システムに移行する可能性が極めて高くなっている。
基軸通貨多極化の状況
これはどのような動きなのか、最近の出来事で確認してみよう。
すでにロシアと中国の決済通貨には、人民元やルーブルが使われ、ロシアとインドの貿易決済にはインドのルピーやルーブルが使われるようになっている。
こうした動きを受けて、決済通貨としてのドルの使用割合は次第に減少し、2022年では、すべての国際決済の43.3%にしかドルが使われていない。これは20年前の2002の72%と比べると大きな減少だ。また、各国の中央銀行の外貨準備に占めるドルの割合も減少している。2022年は57%だったが、これは2003年の73%に比べると大きな減少だ。
このような動きは、ウクライナ戦争後、確実に加速している。そして、それを受けて基軸通貨の多極化に向けてさまざまな動きが起こっている。
例えば、スイスのダボスで開催された「世界経済フォーラム」で、サウジのアルジャダーン財務大臣は「サウジアラビアの変革」というパネルで演説し、米ドル以外の通貨での取引を検討すると明言した。
また、イランとロシアの中央銀行は、ドル、ルーブル、リアルに代わる対外貿易決済用の独自のデジタルステーブルコインの採用を研究していることを明らかにした。これは暗号通貨で、金の価値に裏打ちされた中央銀行デジタル通貨(CBDC)となる構想だ。これを決済通貨として使うと、SWIFTのようなドル主導の決済システムからの排制裁的な排除を心配する必要はなくなる。
また、今年のBRICSの輪番議長国は南アフリカである。今年は、アルジェリア、イラン、アルゼンチンからトルコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)までが候補となるBRICS+の拡大が始まる。
南アフリカのナレディ・パンドール外相は、BRICSがドルを回避する方法を模索し、「裕福な国に偏らないより公平な決済システム」を構築したいと考えていると明言した。