帝国データバンクの調査によると、昨年の人手不足倒産が140件と、前年の111件から再び増加に転じました。このうち、従業員退職による倒産が57件と、全体の4割を占めています。人手不足感が強い中で物価高が進み、企業も賃上げを余儀なくされていますが、「ない袖は振れない」企業も多く、今後賃上げ格差が役員・従業員の退職や移動をもたらし、賃上げ倒産が増える可能性が高いと言います。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2023年2月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
人手不足倒産が増加に
コロナ禍で企業には「ゼロゼロ融資」や超低金利など、空前の金融緩和が行われ、企業倒産は減少を続けていました。
しかし、昨年にはその大規模緩和の中でも「物価高倒産」「人手不足倒産」が増えてきました。
帝国データの調査では前述のように人手不足の中で、従業員や役員の退職で経営維持が困難になるケースが増えています。
従業員退職型倒産が人手不足倒産の中で4割を占めていますが、業種物にみると、建設業では5割と、半分が従業員の退職で回らなくなったと言います。
これに次いで従業員退職の影響が大きいのは小売業の40%、サービス業の39.5%、製造業の38.5%と続いています。労働集約型業界ほど、従業員退職の影響が大きく出ています。
賃上げ倒産増加の前兆
この現象は、今後の賃上げ倒産増加を予兆しています。
物価高が進み、労働者の賃上げ要請が強まり、少しでも高い賃金の企業に移動したいという思いも強いなかで、経団連など財界もついに賃上げに動き始めました。
大企業の中には定昇込みで6%以上の賃上げを予定するところがあり、なかには10%アップもあります。住友フィナンシャルは初任給を5万円上げると言います。
横並び意識の強い日本の産業界では、住友が上げれば三菱もとなり、第一生命が上げれば明治生命も、ということになります。
大企業の間では右へ倣えの動きが広がりそうですが、一方で中小零細企業では賃上げどころではないところも少なくありません。「ない袖は振れない」からです。
このため、今年は大幅賃上げをする企業と、賃上げできない企業とで格差が広がりそうです。
この賃上げ格差が明らかになると、賃上げできない企業の役員、従業員はより賃金条件の良いところへ移りたくなり、賃上げが契機となって「従業員退職型倒産」が増える懸念があります。