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早くも賃上げ倒産増加の兆候。薄給しか出せぬ中小企業が直面する「従業員退職型倒産」の危機=斎藤満

リスキリングが移動を助長

賃上げ格差が労働移動のインセンティブになりやすくなっていますが、その流れを助長するのが「リスキリング」の動きです。

企業や自治体の支援もあって、IT・デジタル分野を中心に従業員の間に再教育を受ける動きが広がっています。NHKの「クローズアップ現代」でも取り上げていました。派遣の受付係をやっていた人が、リスキリングにより、プログラミングの「正社員」職を得たケースも紹介されていました。

中小企業の中にも、熟練労働力不足で、社内の労働力を「リスキリング」によってスキルアップしたいとするところが増え、時間を割いて再教育を進めるところが増えています。

個人ベースでも週末や夕方の時間を割いてリスキリングを実践する人が増え、彼らは新たに得たスキルを活かして転職を目指すケースも少なくありません。

企業が率先してリスキリングを実践した結果、却って従業員がそのスキルをもって他社に移動するケースもありますが、技術系の熟練労働力、IT・デジタル技術者不足が深刻なだけに、今後一段とこの動きが広がり、結果として従業員を失う企業は倒産の危機に直面することになります。

日米で逆行

米国では「ジョブ・ホッピング(転職)」は常態化し、1年から3年で職を移るケースが多いと言います。

企業の人事担当からすれば、それだけ新たなリクルート活動にコストがかかるので、近年では従業員のつなぎ止め、長期定着化を進めるところが増えています。そのために社内カフェを充実させたり、社内にスポーツジムを作ったりして福利厚生に努め、従業員の気を引こうとしています。

その一方で、日本では小泉内閣のあたりから米国のように労働市場を流動化し、固定費としての人件費を変動費化するよう、制度改正も進めました。中途採用の高まり、非正規雇用の活用などです。

硬直的な人事制度が負担になる企業にとって、年功序列型賃金や終身雇用制度は負担の元で、必要な時に必要なだけの労働力を使えれば、人件費コストが軽くなるとの期待がありました。

会社のお金で海外留学させると、そのまま海外で転職したり、日本に帰国後、より処遇の良い外資系企業に転職するものも増えました。このため、社内教育への資源配分を減らす企業が増えました。そして従業員の間に「わが社」「うちの会社」という意識が薄れ、自分の所属する企業への忠誠心が希薄化しました。これが生産性を抑圧する面も否定できなくなりました。

そして非正規雇用が全体の約4割を占めるに至り、正社員と非正規雇用との賃金格差が3対1(国税庁「民間給与実態調査」)に広がるに至って社会問題化しました。年収190万円では結婚して子どもを持つことはできません。少子高齢化の1つの要因とされるに至りました。

そこで日本でも「同一労働同一賃金」、「非正規の正規雇用化推進」、「非正規雇用の社会保険加入」などで穴埋めする動きとなりました。

Next: いつから従業員を大事にしなくなった?「日本型経営」見直しの動きも

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