自民党「理解増進」vs. 野党「差別解消」という構図
岸田首相は、2月3日の荒井勝喜元首相秘書官の「差別発言」による政権危機拡大を受け、6日にLGBT理解増進法案の国会提出に向けた準備を自民の茂木敏充幹事長に指示した。
この報道を受け、記事によればさまざまな憶測が飛び交っているとあります。
「悪い流れを変える狙い」「5月の広島G7サミット(先進7カ国首脳会議)前の成立を目指す」……自民党提出の案は、どうやら差別を禁止するのではないようです。差別解消に向けた具体策がなく、野党が提出済みの、行政や事業者に性自認による差別を禁じるなど実効性のある「差別解消法案」とは、内容は異なるようです。
文言の戦いに終始しているようにも見えますが、自民党にとってはすごく重要なことなのでしょうね。
自民党「理解増進」vs. 野党「差別解消」という構図になっています。
この戦いは、この性的マイノリティーの人々の人権を守ろうとするたびに、国会で繰り広げられる議論になっています。
今回も、自民党が出してきたものは「理解増進法」という表現です。
<自民党「LGBTQ理解増進法案」骨子>
理解増進のための基本計画の策定を政府に義務付け
企業や学校に啓発や相談機会の確保の努力
政府による施策の実施状況の公表(年1回)
<野党「LGBTQ差別解消法案」骨子>
差別解消を図るための基本方針の策定を政府に義務付け
行政や企業に差別的取扱い禁止や合理的配慮を求める
企業や学校に報告を求めたり、助言、指導、勧告などができる
この議論は以前にもあり、東京五輪前に、日本社会の多様性を世界に訴えるために議論はされましたが、やはり自民党内の安倍元首相を中心とした「保守派」の反発があり頓挫した経緯があります。
東京五輪前の2021年に、性的マイノリティーの人たちへの理解を促進するための法案は、「差別は許されない」というこの一言が書き加えられたことで、自民党内の意見がまとまらず、国会への提出が見送られました。
当時この文言に強く反対し、今回も異を唱えているのが、自民党西田昌司政調会長代理です。今回の議論に関しても西田氏は記者団に対し「いったん自民党で議論され、採択されなかった事実があるので、また同じことをすると分断だけを生む」と反発しています。
東京五輪前の議論では、反対派の意見として、「差別は許さない」という文言を入れることで「行き過ぎた運動や訴訟につながるのではないか」「自分は女性だと主張する男性が、女湯に入ることを要求するようなケースが生じかねない」と主張しています。
個人的には「なんだかなぁ~」という思いですが、冷静に事実を取り上げます。
当時の議論における西田氏の発言です。
「みんなが互いを理解しあって寛容な社会を作っていこうという方向性が自民党の元々の案だ。そこに『差別は許されない』という1文が入ると、法律の目指すところが『寛容な社会』とは意味がちょっと変わってくる。ある意味で、事実上の禁止規定になってくるから、さまざまな問題点が出てくるのではないか」
「LGBTの人たちの中には、この法案を望んでおられる方ももちろんいるだろう。一方で『いらない』という方がいるのも事実で、もう少し冷静に、深く広く、掘り下げて考えるべきだ」
東京五輪という世界的ビッグイベントの前に、日本は社会の多様性を求めるメッセージを出せないでいて、また今回、G7議長国として開催される広島サミットの前に、西田氏は「差別の禁止や法的な措置を強化すると、人権侵害など逆の問題が出てくる。社会が分断されないような形で党内議論をすべきだ」と法案推進派を強く牽制しているのです。
差別禁止は逆差別…?
差別する側の人権も守れ…?
岸田首相も「“不当な”差別」と、差別を語る上で“不当な”という言葉をつけて差別を否定していますが、差別に“不当でない”ものがあるのでしょうか。
「差別する側の人権を守れ」という表現に「“不当な”差別」という言葉をかけ合わせると「“不当でない”差別はしても良い」ということにならないのでしょうか。
そもそも「差別をする側の人権」って何ですか。
でも過去に与党自民党は、差別を禁止している法案を可決したことがあるのです。
2016年 障害者差別解消法(全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的)内閣府パンフレットより
2019年 アイヌ施策推進法(アイヌ民族を法律として初めて「先住民族」と明記し、独自の文化を生かした地域振興策のための交付金制度などを盛り込んだ)
これらに「差別禁止」は盛り込まれています。なぜ今回の「LGBT」に関しては「差別禁止」の文言を使ってはいけないのでしょうか…。