岸田首相の“同性婚”法制化をめぐる発言「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だからこそ、社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事」に怒りを覚えます。そのあとの荒井首相秘書官の差別発言の方が問題となっていますが、すべての始まりは岸田首相のこの発言からです。本当に社会は変わるのか?変わってはいけないのか?G7で同性婚・夫婦別姓が認められていないのは「日本だけ」という事実と合わせて問題点を整理します。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)
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すべては岸田首相の発言から始まった…
「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だからこそ、社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事」。2月1日衆議院予算委員会での、同性婚の法制化をめぐる答弁での、岸田総理の発言です。
同性婚や夫婦別姓を認める制度改正をすれば社会が変わる……日本の行政のトップが、はっきりとこう言ってのけた2日後の2月3日夜、首相官邸のオフレコ前提での、性的少数者や同性婚のあり方に関する取材において荒井勝喜(まさよし)首相秘書官の記者団に対し、「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」発言が問題視されました。
この発言を報じたのが毎日新聞で、「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」「人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」との趣旨の言及もあったと報じています。
これらの発言が報じられると、荒井氏は発言を撤回・謝罪し、岸田首相は荒井氏を更迭しました。
その対応は“異例の早さ”でした。
岸田首相発言からこの差別の問題は始まっていますが、その発言を上書きするかのように首相秘書官の発言が飛び出し、マスコミはもっぱら荒井秘書官の発言を取り上げています。
そしてこの素早い更迭劇を見せられると、どうしてもうがった見方をしてしまいますね。
森友学園問題で、安倍元首相が国会質疑の場で「辞職」という言葉を使ったために、その後の役人による公文書の改ざんが行われたとされる状況を彷彿させますね。
「更迭」といえば、昨年8月の人事で性的少数者らへの差別的な発言が目立っていた杉田水脈氏を総務政務官に起用し、その後、批判の高まりを受け、12月になってようやく更迭したことがありましたね。こちらはやたら、更迭まで時間がかかっていました。
同性婚や夫婦別姓は社会を変える……何がどう変わるのか、具体的にされていないのでなんとも言えませんが、どう考えてもこの表現から、その後、岸田首相がどんなに言葉を付け加えても、同性婚や夫婦別姓に関して肯定的に捉えられている感じはしませんね。同性婚や夫婦別姓を認めることにネガティブであることをイメージさせるしかないですね。
ただこれらの言葉の影響力は大きく、自己肯定感に悩む若い同性愛者などの性的マイノリティーの方々や、夫婦別姓を求めて法律婚ではなく事実婚を選ばなければならない日本社会に生きづらさを感じている人々を、大きく傷つけたことは間違いありません。
言葉は、時には実弾よりも強力な武器となります。ときには暴力装置にもなり、人の命も奪ってしまうものでもあります。
「同性婚や夫婦別姓を認める制度改正をすれば社会が変わる」発言は非常に重く、その後で上書きされた「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」発言がどれだけ罪深い表現だったことか。
メンタルの弱い人たちの命をも脅かしそうなこれらの発言を、日本国の“行政の長”が発したことの意味を、もっと重く考えたほうが良いのではないでしょうか。
「この法案は関係がある人には素晴らしいものですが、関係ない人にはただ、今まで通りの人生が続くだけです」
ハフポストにある記事をご紹介します。ニュージーランド議会において、2013年に当時議員だったモーリス・ウィリアムソン氏が、同性婚を認める法案の最終審議と採決の際に行ったスピーチが紹介された記事です。
彼のスピーチにあるフレーズです。
「明日も世界はいつものように回り続けます。だから、大騒ぎするのはやめましょう。この法案は関係がある人には素晴らしいものですが、関係ない人にはただ、今まで通りの人生が続くだけです」
※参考:「同性婚を認めても、関係ない人にはただ今まで通りの人生が続くだけ」。ニュージーランド元議員のスピーチに注目集まる – ハフポスト NEWS(2023年2月2日配信)
体中に電気が走りました。
「(同性婚や夫婦別姓容認のために)制度を改正すると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と堂々と言ってのけるどこかの国のトップに聞かせてあげたいですね。
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