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賃上げ格差が危険水域に。“満額”連発の大企業、“人手不足倒産”危機の中小…どちらもコスト高で物価上昇=斎藤満

近年にない大幅物価高の中で、久々に賃上げムードが広がっています。その中でやはり大企業と中小企業とで、賃上げ力の格差が表面化しました。賃上げが新たな所得格差を広げる懸念があります。また今回の賃上げが今後新たな物価高へと転嫁されてゆく可能性にも注意が必要です。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

【関連】30年ぶり賃上げがもたらす最悪の格差社会。恩恵のない弱者と年金生活者は物価上昇で火の車=斎藤満

※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2023年3月20日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

大手では“満額”連発

先週、今年の春闘の回答が集中しましたが、電機・自動車などでは相次いで「満額回答」がなされました。

電機では最低5,000円の賃上げをベースに個別交渉に臨みましたが、結果的にNECや富士通は個々に要求した7,000円の賃上げが「満額回答」を得ました。自動車ではトヨタが定期昇給を組めて9,370円、ホンダはやはり定昇込みで1万9,000円、日産は1万2,000円を満額回答しています。

また牛丼チェーン「すき家」をもつゼンショー・ホールディングスは4月1日より正社員の給与を9.5%(月額3万2,864円)引き上げると発表しました。定期昇給分が1.78%、ベアが7.72%となります。また大卒初任給をこれまでの22万2,000円から25万円に引き上げるとしています。

初任給ではメガバンクが5万円から5万5,000円の引き上げを表明しています。

中小企業は難航

一方、中小企業の賃上げは、日本商工会議所が6割近い中小企業が賃上げ実施を考えていると報じています。

それだけに期待された中小の動きですが、ここまで出てきているところでは9,000円余りの賃上げを打ち出しているようですが、動きは遅く、賃上げ余力のない企業が人手不足と賃上げによるコスト高の間で揺れ動いているようです。

大企業の下請け企業ではコスト高にもかかわらず、大企業への納入価格が上げられず、収益を圧迫されているところも少なくないと言います。納入価格が横ばいで材料費が5割も上がっていて、賃上げどころか経営維持も苦しい、と訴えるところが少なくありません。

農畜産業でも牛乳などの販売価格が上げられない中でのコスト高という同様の危機感を訴えています。

開く賃金格差

JAM(ものづくり産業組合)の賃金全数調査によると、高卒30歳の所定内給与を企業規模別にみると、従業員1,000人以上の企業の給与は、従業員300人未満の企業に比べて、2000年で平均9,307円上回っていました。これが2020年では2万6,202円上回り、規模別にみた賃金格差はこれまででも広がっていました。

そして今回はさらに賃上げ幅に格差が出そうなだけに、一段と規模別にみた賃金格差が拡大すると見られます。それにとどまらず、大企業の中でも賃上げ余力の差が見られます。例えば、一発回答を出した自動車業界を見ると、業界トップのトヨタがEV対応の遅れもあり定昇込みで9,370円となったのに対し、同じ基準でホンダは1万9,000円を回答しています。同じ業界でも今回は賃上げ幅に大きな差が見られます。

Next: 人手不足倒産の危機。賃金コスト増がさらなるインフレを呼び込む…

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