<理由その2:なか卯と契約している農家の卵は鳥インフルエンザの影響を受けていないから>
2023年現在、世界各国で鳥インフルエンザが流行しており、日本でも採卵鶏の飼育数の1割を超える鶏が殺処分になっているようです。しかし、ゼンショーホールディングスが契約している農家は未だ鳥インフルエンザに感染しておらず、供給が安定しているようです。もしこれが契約農家からの直接仕入れでなかったとしたら、鶏卵価格高騰の影響は避けられなかったでしょう。ここで、ゼンショーHDの規模や垂直統合効果が発揮されていると言えます。
※参考:なか卯、卵高騰でも「親子丼40円値下げ」のカラクリ – 東洋経済オンライン(2023年4月8日配信)
<理由その3:広告効果が期待できるから>
ただいくらダメージが小さいとは言っても、値下げは一時的には企業の業績にマイナスの影響をもたらすでしょう。しかし、このマイナス要因を広告効果で補える可能性があります。それも単なる15秒、30秒のCMではなく、数分間にもわたってテレビで流れる可能性があるのです。
卵を使う外食産業の多くが値上げや卵商品の販売休止を行っている中、なか卯が値下げを実施したことは非常に珍しい事例です。この事例を様々なメディアが報道しています。
日本テレビ『news every』、TBS『THE TIME,』『ひるおび』『Nスタ』『news23』、フジテレビ『めざましテレビ』『Live News イット!』、テレビ朝日『スーパーJチャンネル』、さらに日本経済新聞、読売新聞など、大手メディアのほとんどが、このニュースを報道しています。
大手メディアの多くが報道し、広告効果が期待でき、顧客の来店や売り上げの増加につながる可能性があります。
以上のように、企業の規模と安全管理、宣伝効果を総合的に考えて「値引き」に至ったのだと想像します。
親子丼値引きは本当に効果があるのか?
ただ、単に値下げするだけでは利益が上がることは少ないと考えられます。そこで、今後なか卯がどのような戦略を取るかを考えてみましょう。
まず、商品価格が下がった場合に何が起こるかを確認する必要があります。そのために、過去の牛丼価格競争の歴史を参考にすることができます。
<牛丼の価格競争は何をもたらしたのか?>
我々消費者は牛丼=安い、というイメージを持っているのではないでしょうか?しかし企業にとっては薄利多売のビジネスを強いられる事になります。つまり、価格競争は牛丼業界の利益率の低下をもたらした、と考えられます。例えば吉野家と松屋の牛丼一杯の価格と利益の推移を確認すると、収益が伸び悩んでいることがわかります。
参考:各社有価証券報告書と値上げ備忘録より作成
この結果、牛丼チェーン各社は選択と集中を迫られます。
- 吉野家:牛丼に注力
- 松屋:カレーや期間限定商品
- すき家:牛丼にトッピングする
このように値下げした商品の一本足打法では利益が伸びづらい状況であるため、豚丼やカレー、トッピングなど、値下げした商品に付加価値をつけて利益を狙う戦略が採用されています。
実際に、コロナ前は松屋が吉野家に比べて利益率・額ともに高いことから、いずれなか卯もトッピング親子丼などで利益率を高めていく可能性があります。あるいは、顧客が増えたころで再値上げを行えば、売上利益共に伸ばすことも可能でしょう。
物価高が叫ばれるご時世において、逆張りの値下げを打ち出し、顧客を獲得した後に徐々に利益を上げていく、非常にしたたかな戦略だと考えます。