日本経済が変わることは、日本企業の変革があって初めて可能になる。その意味で、日本は「再起」のスタートラインに立っていると言えるだろう。いま世界は日本企業の技術力を再評価しはじめている。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
日本経済が反撃の狼煙をあげている
歴史を顧みるとき、必ずエポックメーキングがある。日本の場合、1945年の敗戦、1990年のバブル崩壊。そして、2023年の日本経済再始動を可能にした国際情勢の変化である。米中対立という大きな変化の中で、日本は地政学的リスク・ゼロという好条件下において、中国に代りうるとの認識を得て「敗者復活戦」で勝利を得た。
日本は、バブル崩壊という歴史的事件で痛手を負った。偶然にも同時に、始まったグローバル経済という流れの中で、その立ち位置を失った。従来の米ソ対立下の保護貿易時代から一挙に、ソ連崩壊=グローバル経済によって足下を洗われたのだ。米国はまた、自国へ肉迫する日本経済を突き放すべく、意図的に超円高へ誘導した。さすがの日本経済も、こうした幾重にも重なる圧力に抗すべくもなかった。2008年、GDP世界2位の座を明け渡す羽目になった。
だが、これまで日本を覆っていた「霧」は、2023年に消えたのである。
米中対立は、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、中国が台湾を侵攻するという疑念でさらに深まった。中国の地政学的リスクを高めたのだ。これまで、中国へ向っていた米国資本は、「利敵行為」という認識に代わり、対中投資をストップさせている。
代わって、登場したのが日本である。これから成長期待のアジア市場で、日本が橋頭堡として活躍するという評価を生んでいる。これは、中国の経済的な地位低下に繋がる問題となった。日本への高まる再評価は、中国の地盤沈下に結びつく点で、中国の対日観は敵対的になっている。福島処理水放出で、あのような異常な振舞をするのは「日本牽制」そのものである。アジアの盟主は、中国であるという自己主張に外ならないのだ。
日本企業独特の強みとは
日本経済は、米ソ冷戦下の保護貿易下で製造業のワンセット体制を築いた。「川上」(素材)から「川下」(加工)まで一貫する体制である。現在これが、日本企業最大の強みとなっている。耐久消費財での日本ブランドは消えたが、部品産業はそのまま発展しているのだ。
アップルの最高級iPhone部品は、65%が日本製である。特にカメラ機能が抜群とされるが、この半導体はソニー製である。アップルは、ソニーが存在しなかったら、サムスンのスマホと差をつけられなかったのだ。昨年、アップルCEOは熊本のソニー半導体工場の増設工事を視察すべく訪日した。その際、ソニーのほかに日本の部品メーカーを訪ねている。アップルにとって、日本企業は不可欠の存在である。
IBMも、日本企業を無二の相手として高く位置づけている。IBMは、半導体最先端の「2ナノ」(ナノは、10億分の1メートル)技術を開発したが、製造技術がないことから日本企業との提携を選んだ。これは、米国政府が承認した事業である。日本は1980年後半、世界半導体生産シェアの半分を占めていたが、米国政府の横やりで地盤沈下を余儀なくされた経緯がある。今度は、その「逆バージョン」である。長い目で見ると、歴史とはこのように面白いものだ。
こうして、日本半導体は長年にわたり韓国の後塵を拝する事態になったが、「昔取った杵柄」で、サムスンと肩を並べる「2ナノ」以下の超微細半導体生産に取り組む。2027年に量産化予定だ。
この事業は、国策半導体企業の「ラピダス」が担う。ラピダスCEOは、「台湾の半導体企業TSMCと競合しない」と発言している。だが、「サムスンとの競合」を否定しない。サムスンは、日本の半導体技術を「窃取」した。日本へ正規の技術指導料を払っていないからだ。それだけに、日本の半導体企業は、サムスンに対して「一物」あるのだろう。
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