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誰もが知らないうちに無駄遣い…日本人を貧困に落とす“認知バイアス”の恐ろしい仕組み=神樹兵輔

「認知の歪み」は気づかぬうちに私たちの脳を侵奪する

ところで近年では、「合理的に行動する人間」を前提とした従来の経済学に、「人間は非合理的に行動する」という心理的な概念を融合させた「行動経済学」において、さまざまな興味深い事象が明らかにされるようになっています。

「市場の歪み」ならぬ、「認知の歪み」なのです。

実際、多くの消費者は、気づかぬうちに不合理な行動をとっています。

たとえば合理的な思考では選択されないはずの、市場価格よりもはるかに高額の商品が売れる分野があります。

皮革製品や、時計、クルマなどの高級ブランドと呼ばれる一群の商品や宝飾品、美容関連の市場なのです。

実用としての本来価値ではなく、「見せびらかしたい(ウェブレン効果)」といった欲求に支配された高価格帯市場を見事に形成することに成功しています。

このように経済社会には不思議なカラクリ、面白い現象が溢れ返っているのです。

そんなカラクリの一端にも通じておけば、モノの見方、お金の効用についての理解もすすみ、人生を豊かで面白いものに変えていくことも出来るのではないでしょうか。

「ヒューリスティック」や「認知バイアス」とは何か?

経済学に認知科学を融合させた「行動経済学」という分野で、2002年にノーベル経済学賞を受賞したのは、イスラエル出身の米国の心理学者ダニエル・カーネマン博士でした。

カーネマン博士は、私たちの脳がどのような思考経過をたどって「判断ミス」や「過ち」に導かれるかを研究しました。

それが今日、「ヒューリスティック」や「認知バイアス」といった言葉の広がりとともに、人間の行動理解に大きく貢献してくれているのです。

人は、物事をとらえる際、その多くを直感で判断しています。

瞬間的、無意識に考える脳の「システム1」を機能させ、「これはオトクだから買おう」とか、「危険だから近づくのをやめよう」などと判断し、行動に移しているのです。

これは、私たち人類の生存戦略に直結する、極めて重要な脳のはたらきです。

しかし、簡単に「直感」で判断できず、「熟考」を要する事柄の場合もあります。

「どうやってこの商品の売上を伸ばすか」とか、「この人と結婚すべきか」といった問題に直面した時です。

こうした場面で人は「システム1」の直感に導かれつつ、論理的かつ理性的思考を行う脳の「システム2」を起動させて考えます。こちらは脳に多大な負荷がかかり、「システム1」が「速い思考」、「システム2」が「遅い思考」と呼ばれるゆえんです。

ところで、こうした「システム1」にも、「システム2」にもそれぞれのはたらきにおいては欠陥があります。

「ヒューリスティック」とは、「経験則」ともいいますが、主に「システム1」での判断の際、複雑な問題を「簡便な事例」に置き換える作用のことを指しています。

速く答えが出せるものの、置き換えた事例が適切でない場合もあり、これが「システム1」の欠陥といわれます。

そして、「システム2」にも欠陥があります。

睡眠不足や二日酔いだと十分なはたらきができません。面倒なので「システム1」の答えに便乗する怠惰なケースもあるでしょう。

こうしたヒューリスティックへの過度の依存や、ある特定の状況下で起きる「認知の偏りや歪み」のことを「認知バイアス」と呼びます。その数は百以上もあるといい、私たちは、この脳の独特の「クセ」や「偏り」によって、人生にも多大な影響を受けているわけです。

Next: 「損はしたくない」という脳のはたらきが私たちの判断を狂わせる…

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