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かつての「半導体大国ニッポン」が凋落した本当の理由。罪深き「日米半導体協定」での政府の失態とは?=辻野晃一郎

サンディスクとの邂逅

それからしばらく後、私が本社R&D戦略部門の若手スタッフとして在籍していた頃には、こんなこともありました。

私は、将来的にハードディスクはシリコンディスクに置き換わるだろうと予測し、フラッシュメモリーの将来性に着目していたのですが、サンディスクという起業したばかりのベンチャーを見つけました。そしてこのサンディスクのことをいろいろと調べ上げて、同社への出資または買収を半導体事業本部に提案しました。サンディスクの創業者は、エリ・ハラリという気難しい元インテルのエンジニアでしたが、彼にも何度も会って、一緒にセコイア・キャピタルなどシリコンバレーのVCを回ったこともあります。

しかし残念ながら、当時のソニー半導体事業本部はなかなか煮え切らず、結局この話は流れてしまいました。その後、サンディスクは大成功してNASDAQに上場し、東芝とも提携しましたが、今はウエスタンデジタルの傘下に入っています。もちろん、エリ・ハラリはシリコンバレーで最も成功した起業家の一人になりました。

あの時に、ソニーがもしサンディスクに出資するなり買収するなりしていたら、その後のソニーの歴史も大きく変わっていたでしょう。また個人的にも、もしあの時にソニーを辞めてサンディスクに転職していたら、また全然違う人生を歩んでいたに違いありません(笑)。

日本半導体の凋落

かつて日本では、「半導体は産業のコメ」と言われました。半導体は世界の戦略物資であり、現在進行形の米中覇権争いの中でも、米国が真っ先に中国への輸出や技術流出に対するさまざまな規制を強めた分野です。これは、かつての日本に対する米国の態度を彷彿とさせるものでもあり「日米半導体摩擦」という言葉が使われていた時代を思い出します。

日本はもともと半導体王国で、特にDRAMやSRAM等の半導体メモリーが強かったのですが、家電や自動車と並び半導体は稼ぎ頭の産業でした。1980年代には、世界の半導体における日本のシェアはピークで50%を超えており、日本電気(NEC)、東芝、日立、富士通、三菱電機、松下電子の6社が世界のトップ10に入っていました(下図参照)。

ところが、2019年には日本のシェアは10%前後に落ち込み、トップ10には東芝から分社化したNAND型フラッシュメモリーのキオクシア1社が残るのみとなりました。それが、2022年になると、下図にはありませんが、そのキオクシアも脱落して、今やトップ10に日本企業は1社も残っていません。

1999年にNECと日立のDRAM部門を統合して発足し、後に三菱電機のDRAM部門が加わったエルピーダ・メモリも、一時持ち直したものの、結局2012年に破綻して米マイクロンの傘下に入りました。今や、大手半導体専業メーカーとしては、三菱電機、日立、NECの半導体部門を統合して産業革新機構が支援したルネサス・エレクトロニクスが、何とか息を吹き返してかろうじて孤軍奮闘で踏ん張っている状態です。

出典:経済産業省「第1回半導体・デジタル産業戦略検討会議」資料(2021年3月24日)

出典:経済産業省「第1回半導体・デジタル産業戦略検討会議」資料(2021年3月24日)

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