中国では先週「3中全会」が開催され、21日にはその決定全文が公表されました。市場の最初の反応が中国株下げとなったように、中国政府は腐敗の取り締まり強化で体制の安泰を図る一方で、経済危機への対応は不十分なまま、AIや航空宇宙などの戦略産業を育てるちぐはぐさ。内憂外患、長期的にも短期的にも苦しい状況の中国経済を考えると、しばらくの間中国経済は冬の時代から抜け出せそうにありません。
経済の悪化、人民の生活困窮が社会不安となり、外交上の弱点にもなりかねないだけに、中国を相手に経済活動をする日本企業は、そのリスク管理を十分に行う必要が高まっています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
経済より体制強化?
18日に閉会した中国の3中全会では、まず体制強化を図る人事処遇がなされました。つまり、習近平主席の外交戦略と歩調が合わなかった秦剛前外相の党中央委員辞任を承認、ついで李尚福前国防相と、李玉超前司令官の党籍はく奪を決めました。両者ともに重大な規律、法律違反があったとしています。
一般国民からの評価が今ひとつの習近平政権は、汚職にかかわった幹部の厳正処分が政権評価にプラスと考え、体制強化のために汚職幹部を一掃し、合わせて習近平氏に全面服従する意図のない幹部の排斥を進めています。習近平主席の周りはイエスマンで固められ、批判はもちろん、建設的な意見具申もなされなくなっているといいます。
しかも、主席は永久政権を考えているために、後継候補を育てていません。習近平主席が「裸の王様」になり、しかも次を担うべきリーダーを育てない分、習近平政権が揺らいだ場合に、国家の体制が一気に不安定になります。
中国経済の内憂外患
体制の強化も良いのですが、今日の中国経済は深刻な「内憂外患」にあります。国内は不動産の供給過剰が資産デフレ、債務危機をもたらし、これに対して当局は価格規制をするなど、対症療法的な策にとどまっています。公共工事で景気を刺激するにも、地方政府の債務問題が深刻です。21日に公表された決定全文をみても、中国経済を危機に陥れた要因にメスを入れていません。
そして急速な少子高齢化が進み、親世代の社会保障が不十分なため、若い世代の負担になり、これがまた結婚の縮小、少子化をもたらす結果となっています。その若者世代は「大学を出たけれど」の就職難にあり、家でカウチポテトになっているか、宝くじで起死回生を狙うしかなくなっています。若者の失業率は20%を超えてから発表されなくなりました。
今回の決定全文を見ても、目標の中に若者の雇用機会拡大、高齢者の生活水準の引き上げが盛り込まれていますが、具体策は明示されていません。
しかも海外からは安価なEVの輸出に反発が強まり、欧米は中国製のEVや太陽光パネルなどに高い追加関税を課すことになりました。また米国バイデン政権は、中国への半導体輸出や技術支援を規制し、日本など同盟国にも同調を求めています。中国がロシア支援をすればますます欧米からの規制が強まります。
中国経済はまさに深刻な「内憂外患」にあります。国内の需給不均衡は日本のバブル崩壊時以上に深刻ともいわれ、共産党政権ながら若者の雇用機会を提供できず、高齢者の介護体制、医療体制も不十分です。この社会不安が一層の少子高齢化につながる面があります。