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中国危機「第2段階」に突入。その場しのぎの住宅不況対策で事態悪化、地方財政から陥落へ=勝又壽良

「土地本位制」末路哀れ

中国は、改革開放政策によって市場経済化を進めたが、この過程で国有地である土地使用権を民間へ売却することで多額の税収入を上げられることが分った。中国政府が、土地を打ちでの小槌に使い始めた理由である。私の用語によれば「土地本位制」(学術用語でない)にどっぷりと浸かる結果となった。これが、相続税や不動産税を創設しなかった背景だ。今になってみると、とんでもない安易な道に嵌まり込んだと言える。

土地売却益が、地方政府の歳入構造でどのようなウエイトを占めていたか。断片的にメディアで報じられてきたが、正確なデータが分った。前記の中岡教授によれば次のようになっている。

中国の地方政府収入は、一般予算収入と政府性基金収入がある。「2023年財政収支情況」によると、地方政府の一般予算収入は合計11兆7,218億元(約230兆円)。政府性基金収入の合計は6兆6,287億元(約130兆円)である。この政府性基金収入の87%が国有地使用権の譲渡収入である。

以上の記述を整理すると、地方政府収入全体に占める国有地使用権の譲渡収入は、実に31.4%にもなる。この高い比率に強い衝撃を受けるのだ。地方政府の財政は、基本的に「地価依存」という不安定な状況にある。地価が、現在のように値下がりしつつある状態では、土地売却益自体がさらに減少する。それは、地方行政に大きな障害をもたらす。予算が足りなければ、すべての行政が円滑に進まないからだ。

習氏が、この実態を知らないはずがない。予算不足の地方政府を立て直すには、地価を安定させることが最優先事項であろう。これが実現すれば、土地取引が復活する可能性も出てくる。それにはどうするかだ。習氏は、地方政府と金融関係者が協力して行えとしているが、地方政府自体そのような余力を失っている。中央政府が、財政出動して不良債権処理を行うほかない。習氏は、自らの責任を回避して逃げ回っている。逃げ回れば逃げ回るほど、最終的に習氏への責任が重くなる。習氏の終身国家主席の望みは「夏の夜の夢」となろう。

中央政府が、不動産バブル崩壊後の債務処理で財政出動すれば、中国経済を覆っている不安心理はかなり消えるであろう。見通しがつくからだ。ただし、その財政赤字の処理と政治責任問題が出てくるのはやむを得ないことだ。習氏は、この政治責任を忌避したい一心である。誰が、こういう事態を招いたのだとして、「罪」を他人へなすり付けたいのであろう。習氏が、全ての経済政策を決めてきたのだ。

習氏の最終責任が不可避である以上、これを回避して不良債権を棚上げすれば、経済衰退という「最悪事態」が待っている。

地方政府リスク負担困難

中国政府は、5月に打ち出した住宅在庫の買い取り策が不調である。地方政府による購入を促すため、中国人民銀行(中央銀行)は低利融資枠を設けた。6月末時点の利用額は、4%にとどまった。地方政府が、高値買い取りによる損失を恐れて、慎重姿勢を取っているからだ。地方財政は青息吐息である。土地売却益減少による財政赤字を抱えており、さらなる赤字要因をつくりたくないのが本音であろう。

中国人民銀行は5月、住宅在庫の購入を資金面で支援するため、3,000億元(約6兆円)の資金枠を作った。人民銀行は、商業銀行へ1.75%という低利で貸付、商業銀行がそれを元手にして地方政府へ買い取り資金を再融資するという仕組みである。

この資金枠の利用が進んでいないのだ。地方政府が、住宅在庫を買い取っても保障性住宅(低収入層が需要層:公営住宅)の生み出す収益だけでは損失を抱えるだけ、と恐れている結果である。一部の省都で販売する保障性住宅は、一般の住宅より5割ほど安いという。地方政府が住宅在庫を買い取る際に5割値引きしてもらえなければ、最終的に損失を被る可能性が高いとの見方を示しているという。

既購入者は、従来価格で購入している。だが、地方政府が5割引で購入し保障性住宅として転売したとなれば、「一騒動」起こるのは必至だ。中国では、値引きしたマンションでは、先に購入した人たちが「自分たちも値引きしろ」と団結するからだ。結局、この構想を煎じ詰めると最後は「住民パワー」で押し潰されるであろう。地方政府は住宅在庫を買い取っても、売るに売れない事態へ追い込まれるはずだ。中国人民銀行が、低利融資枠を設けても、利用額は4%にとどまったのは当然と言えよう。

中国政府は8月、地方債を使って不動産開発会社が抱える未開発の土地を買い取る方針も打ち出した。公的資金で塩漬けの土地を回収し、不動産開発会社の資金繰り支援を助ける目的である。

Next: 中国経済の崩壊は近い?5割引きの保障住宅が火種に…

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