エムスリー<2413>の株価は2018年は2,000円程度でしたが、2020年に大きく上がり、2021年初頭には1万円を突破しました。しかし、その後株価は落ち続け、足元では1,500円を下回っています。エムスリーの“しくじり”はどこにあったのでしょうか。そして、これからどうなっていくでしょうか。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
エムスリーのこれまで
2024年10月30日に第2四半期の決算発表を行いましたが、その結果が良くなかったということで、株価が1日で13%も下がりました。
一時は高かった株価から大幅に下がっていますが、それでもなお決算を受けて下がってしまうという状況です。
よほど投資家の期待を踏み外しているように感じられます。
エムスリーは、良くでき上がったピカピカの素晴らしい企業です。
ただ、それであるがゆえにしくじってしまった部分があるのではないかと思います。
2000年にソニーの子会社であるSo-net(ソニーネットワークコミュニケーションネットワーク)のいちベンチャーとして立ち上がりました。
その設立に携わったのが、マッキンゼーから来た谷村さんという方で、今もCEOを務めています。
最初は「MR君」という、製薬会社と医師をつなぐDXプラットフォームを作りました。
製薬会社は薬を売らなければならないのですが、その収益の大部分はドラッグストアなどで売られる市販薬ではなく、病院でもらえる薬です。
つまり、医師に処方薬として出してもらう必要があり、営業相手は医師ということになります。
これまでは実際に医師のところに行って、薬の説明や接待などの営業活動をしていました。
しかし、このMRは一時期問題となり、医者と製薬会社がズブズブの関係になって、必要以上の薬を患者に処方するなど、患者のためにならないのではないかという話にもなりました。
また、忙しい医師にとっては製薬会社が営業に来ることが煩わしかったかもしれません。
そんな時に立ち上がったのが「MR君」です。
2000年の頃ですから、スマートフォンはまだないですがパソコンを使用する医師は多かったでしょうし、薬の情報を製薬会社から伝えるなど、製薬会社と医師をつなぐ仕組みを作りました。
製薬会社にとってもメリットがあり、これまでは営業の職員を雇ったり、接待費がかさんでいたりしましたが、デジタル化することによって、本当に必要な情報を医師に届けるということがやりやすくなり、営業コストを下げることができました。
多くの医師がMR君を使うようになれば、製薬会社もMR君を導入せざるを得ず、その導入コストをエムスリーが手にしたということになります。
デジタル化の流れと製薬会社の営業というお金の流れが見事にマッチしたのがこのMR君でした。
そこからポータルサイト(m3.com)というところに派生します。
このポータルサイトでは、MR君もそうですし、医師が読む論文や医療の最新情報が掲載されていました。
また、広告もあり、医師の大部分が利用するサイトということで高い広告効果もありました。
やがて医師のためだけでなく、看護師など医療従事者の転職を支援したり、治験の会社を買収したりするなど、医療を中心に次々と事業を興し、同時に海外進出も行っていきました。
そんな中で起こったことが2020年の新型コロナの蔓延です。
結果的にはこれがエムスリーにとって強い追い風となりました。
製薬会社の営業もいまだ対面で行っていた部分もありましたが、対面ができなくなり、まして医療従事者となるとますます会えないということで、エムスリーを使わざるを得ない状況となりました。
医師としても、コロナの情報を得ないといけないということで、論文を取得したり学会発表を見たりする必要がありました。
そのためにエムスリーのポータルサイトを使用し、そこの収益も伸びました。
その他にも検査の支援などエムスリーが関わる仕事が多く発生し、業績が伸びることになりました。
さらに、コロナの頃には株式投資ブームにもなりました。
そのブームの筆頭になったのがエムスリーです。
事業環境も追い風で、社長はマッキンゼー出身、ソニーが大株主のピカピカの企業で、しかも若い企業なので成長力も目覚ましいということで、絶好の投資対象となりました。
元々PER50倍くらいだったところからさらに5倍くらいに株価が伸びるという軌道を描きました。
2017年にはフォーブスの「世界で最も革新的な成長企業ランキング」で第5位(日本企業1位)という輝かしい実績を遂げています。