トランプ政権が永続することはないにせよ、今後も最大で4年弱トランプのアメリカ第一主義と付き合うことになります。経済がこれに飲み込まれないよう、脱米国経済化を進める必要があります。
トランプ関税が米国の鎖国化、経済の衰退を招くとすれば、日本としては米国経済に多くを依存しない経済を作る必要があります。その場合、国内需要を拡大する道と、米国以外の国々との間で貿易の自由化を進める2つの道があります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
トランプ戦略を利用した内需拡大策
24日にワシントンで行われた日米財務相会談では、トップ・アジェンダが円安修正、ついで消費税となりました。トランプ政権の優先順位がここにあり、日本は円高シフトのための日銀利上げ、消費税の引き下げが最重要な交渉カードになります。これに農産物市場の開放、自動車の規制緩和などが続きます。
これまで日本経済を支えてきた輸出が、最大のマーケットである米国向けで制約が強まるならば、そして円安が円高に転換するならば、日本経済の構造自体を輸出依存型から内需主導型に変えてゆく必要があります。しかも外圧によるとはいえ、消費税の引き下げもカードになるなら特に内需主導が期待されます。
これはある意味、かつてのアベノミクスの大修正となります。アベノミクスでは超低金利下の円安と法人税の実質減税、消費税増税が進みました。このため、輸出型企業が栄え、個人部門は長期停滞を余儀なくされました。このパターンを米国の力によって、企業部門から個人が購買力を取り戻すチャンスになります。
実際、これをうまく活用すれば、アベノミクス当時よりも経済成果を高める可能性を秘めています。
アベノミクスでは輸出で稼いでも国内が右下がり経済のため、企業は利益を国内投資や賃金に還元せず、内部留保にため込みました。その分貯蓄が高まり、総需要が抑制されました。
これに対してトランプ外圧を活用すれば、関税と円高で対米輸出は困難になりますが、円高と輸入米の増加、消費税の引き下げで個人消費環境は様変わりに改善します。コメも含めた食料、輸入品、エネルギー価格が下落し、消費税負担が軽くなる分、消費需要が増えます。これで利益を上げる企業は国内需要の裏付けがあるので、内部留保に逃げずに国内投資が可能になります。
拡大TPPの推進
輸出も全体に苦しくなるわけではありません。
円高ドル安、対米関税で対米輸出の環境が厳しくなる半面、クロス円では必ずしも円高になっているわけではありません。現にユーロ円は依然として160円を超える円安が続いています。
そしてTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からトランプの米国が抜けましたが、他の11か国の間で農産物や工業製品の関税の撤廃・削減に加えて、投資や知的財産権などで共通ルールを作り、貿易や企業活動の活発化を促しています。
今後はこうした協定をより広範にすることが重要で、これに現在経済危機にある中国を巻き込み、さらに環太平洋にとらわれずにユーロ圏、英国も参加できるようにすれば、米国以外の世界を「自由貿易圏」とし、投資拡大のインセンティブにもつなげられます。
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