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参政党14議席の衝撃…30年停滞が生んだ「日本版トランプ現象」の正体とは?極右政党の躍進で見えた日本人の“情念”=高島康司

7月20日に行われた参院選で、極右ポピュリスト政党である「参政党」が1議席から14議席へと一気に躍進した。外国人排斥や「日本第一」を掲げる同党の主張は、もはや一部の過激な支持層だけのものではない。背景にあるのは、30年に及ぶ日本社会の停滞によって蓄積された国民の強いフラストレーション、すなわち「情念」である。参政党という噴出口を通じて、長年抑圧されてきた感情がいま爆発しつつある。この現象が何を意味し、どこへ向かうのかを読み解く必要がある。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)

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※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2025年7月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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参政党の躍進が意味するもの

7月20日、参議院選挙が実施された。この選挙は、汚職スキャンダル・物価高騰・米国による日本製品への関税引き上げで苦境に立たされている保守与党の「自民党」にとって、試金石となった。

自民党と連立与党の公明党からなる与党連合は、参議院での過半数を失った。中道左派の立憲民主党は最大野党の地位を維持したが、今回の選挙の最大の注目点は、極右ポピュリスト政党である「参政党」の躍進だ。参議院の議席を1から14議席に一気に増やした。

このような参政党の主張を簡単にまとめて見た。

参政党の主張は?

参政党は、選挙キャンペーンで移民問題を主要な議題として位置付け、挑発的なスローガン「日本人ファースト」を掲げた。同党は248議席中14議席を獲得し、2022年の前回選挙での1議席から大幅に議席数を伸ばした。

<普通の日本人の党>

参政党は、自身を「同じ考えを持つ普通の日本人たちが集まった政党」と位置付けている。同党は、大阪府吹田市で市議会議員を務めた後、参議院議員に当選した保守派の政治家、神谷宗弊によって2020年に設立された。

同党は当初、新型コロナウイルスワクチンに反対する立場で知られていたが、最近では外国人排斥と移民反対を掲げた選挙運動を展開している。衆議院で3議席を占める同党は、地方選挙や国政選挙で急速に議席を伸ばしている。直近では、2025年6月の東京都知事選挙で3議席を獲得した。

<反グローバリズムの愛国主義>

参政党は「反グローバリズム」を掲げ、有権者に自分の民族や文化を誇りに思うよう呼びかけている。世論調査によると、同党は18歳から30歳の若い男性の間で人気が高い。

直近の選挙キャンペーン中、神谷は極右の陰謀論や誤った情報を繰り返し拡散した。これには、多国籍企業がパンデミックを引き起こしたとの主張や、外国人が集団で犯罪を犯し相続税を回避できるとの主張が含まれていた。ソーシャルメディアは参政党の排外的なメッセージを拡大させた。

<移民排斥>

参政党の選挙での成功は、移民を主要な課題とする欧州や北米の他の右派ポピュリスト政党を想起させる。

神谷は外国人嫌悪者であることを否定している。しかし、米国の共和党、英国の改革党、ドイツのドイツのための選択肢、フランスの国民連合への支持を表明している。他の右派ポピュリスト指導者と同様、神谷は減税、国内産業の振興、外国人規制、愛国心教育を約束している。

<「ジャパン・ファースト」と伝統的価値観の擁護>

しかし、参政党は世界的な右派ポピュリズムの波に乗っている一方で、深く日本的なルーツも持っている。第二次世界大戦で日本が敗戦した後、「伝統的な価値観」を擁護し、日本の帝国の過去を美化する、独特の右翼思想が台頭した。

歴史教育や、戦争犯罪で有罪判決を受けた軍人を含む、日本のために命を捧げた人々を祀る靖国神社への公式参拝などをめぐって、緊張が定期的に高まっている。また、戦前および戦中に日本軍によって性奴隷にされたとされる「慰安婦」の記念碑建設をめぐって、論争も起こっている。

こうした流れを背景に、参政党は、外国のポピュリスト指導者を模倣しただけの存在ではなく、日本のプライドと名誉の回復を目指した保守主義の新しい世代を代表する党だ。

参政党は一部日本人の情念を象徴

これが参政党の主張の簡単なまとめだが、この政党は一言で言うと、日本の伝統的価値観への回帰を主張し、外国人の排除の可能性をも志向する排外主義の愛国主義政党である。その意味では、極右ポピュリズムの政党であると言ってもよいだろう。

もちろんこれは参政党という政党の特徴であるが、これはこの党に限定された特徴ではない。参政党は、現在の多くの日本人が共有する集合的な感情の高まりを象徴した政党なのである。

このメルマガでは、歴史を大きく動かすものは予想を越えたブラックスワンであり、それは国民が集合的に共有している集合意識の感情の爆発だと主張してきた。言ってみれば、それは情念の爆発であるということだ。集合的な情念は、社会のストレスとして時間をかけて蓄積され、臨界点に達すると爆発する。その爆発は、予想できないブラックスワンの出来事を発生させる。

歴史にはこのような事例が非常に多いが、最近ではトランプの出現がそれにあたる。トランプが初めて大統領選への立候補を表明した2015年8月、主要メディアはトランプをリアリティー番組のスターの売名行為と見なし、トランプをとるにたらない泡沫候補として扱っていた。しかしトランプは、グローバリゼーションの流れに乗れずに没落したかつては中間層の一員であった労働者層の格差へのストレスと怨念に訴えるキャンペーンを始めた。このキャンペーンは成功し、トランプという活火山の噴出口を通して、抑圧されてきた労働者層の情念がマグマのように爆発した。この勢いに押し出されるかのよように、トランプは大統領になった。

この構図は、2024年の大統領選挙でも基本的には変わらなかった。まさに、労働者層の抑圧された情念の爆発が生んだ大統領がトランプである。いまアメリカ国内のみならず、世界がトランプ旋風の猛威に震えている。トランプという存在自体が、特定の社会層の抑圧された情念を噴出させたブラックスワンだったのだ。

実は、ブラックスワンとして躍進した参政党が象徴しているのは、現在の日本人の広い層に共有されている集合的な情念なのである。たしかに参政党の支持者は、20代から30代の比較的に若い層の男性が多いと考えられている。しかし、参政党が象徴する情念は、この層だけに限定されているものではない。あらゆる社会層に広く分布している情念だと言える。それが今回のブラックスワンの源泉だ。

Next: なぜ日本人ファーストに支持?強いストレスの源泉「30年間の停滞構造」

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