鉄鋼・自動車含む9業種で米国経済を席巻
日本企業の米国進出業種は、既述の通り9業種である。鉄鋼や自動車以外には、半導体、医薬品、造船、重要鉱物、航空、エネルギー、AIなどが羅列されている。
この枠組みでは、政府の方針に基づきながら各業種が方向性を設定し、技術力を最大限に活かすための努力がされる。日本企業は、これまで各社独自の視点で米国への進出を決めてきた。今後は、日本政府が旗振り役となって米国進出の後押しをする組織的な動きになる。つまり、進出の準備過程の負担が大幅に軽減されるのだ。
現在、構想されている各業種の動きをみておきたい。
- 半導体
- 医薬品
- 造船
- 重要鉱物
- 航空
- エネルギー
- AI
日本は米国内に製造施設や研究開発の拠点を設けることで、サプライチェーンの強化を目指す。これにより、AIやデータセンター、自動車産業など幅広い用途の需要を支える仕組みを構築する。
新薬や治療法の研究開発と、製造施設の設置が進められている。特に、米国内での医薬品供給を安定させる目的である。
環境性能に優れた船舶や、自動車運搬船の共同製造が想定される。これらは、米国海上輸送の効率化と安全保障に直結する。
電気自動車(EV)や蓄電池、半導体に不可欠なレアアースを確保するための精製施設や加工拠点を整備する。
商業用航空機や軍需品の分野で協力が進んでいる。ボーイング社製品の調達や、防衛関連のテクノロジー共有も含まれる。
アラスカの液化天然ガス(LNG)プロジェクトへの日本企業の参加や、電力網の近代化を支援する投資が見込まれる。
米国内の研究拠点を活用した人工知能技術の開発や、その応用分野を拡大する取り組みが強調されている。
こうした取り組みを通じて、日米経済安全保障の強化を目指す。これによって、日米のサプライチェーンが格段に強化されることになろう。
米国内は歓迎一色に染まる
今回の5,500億ドル投資で話題を呼んだのは、トランプ氏が「利益の90%は米国が受け取る」発言したことだ。この発言通りとすれば、日本の取り分は10%である。こんな不公平な「ディール」はあるか、と日本国内が憤慨し、米国内は大喜びだ。各州では、早くも、日本企業誘致に動き出すというほどの反響ぶりである。トランプ氏の「90%発言」には、大きな説明不足があるのだ。
米国では企業誘致にあたり、各州が土地やインフラ投資などを準備して企業を誘致する。これにまつわる利用料に関する日米政府による配分の話である。企業利益分配とは、まったく無関係なことだ。
今回の5,500億ドル投資では、日本政府が日本企業へ進出の枠組みを整備する。枠組みでは、国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)など政府系金融機関が、「出資・融資・融資保証」の3つの金融支援を行なう。先ず、米国進出への日本企業へ融資や融資保証を行なう。同時に進出企業とは関係ないが、米国側による投資基盤整備(土地+インフラ投資)へ出資する。日本企業は、ここへ利用料を支払うのだ。
この利用料の配分は、日米政府の出資に見合って行なうので、米国が90%を受け取る。トランプ氏は、これを「誇大宣伝」に利用した。進出する日本企業の利益には、何ら関係のない話である。