fbpx

レーザーテック株価低迷は買いの好機?米系証券「格下げ」の裏と長期投資家が持つべき視点=元村浩之

半導体業界のトレンド変化とモルガン・スタンレーの格下げ理由

現在の半導体製造業界では、AIブームによる需要増があったものの、製造現場では「これくらいの設備があれば、これくらいのリードタイムと歩留まりで作れる」という見通しが立つようになり、設備投資がやや抑制されつつあります。この変動の波をレーザーテックも受けていると考えられます。

加えて、モルガン・スタンレーが7月28日に発表したレーザーテックの格下げ記事では、半導体業界の技術的焦点が「微細化(リソグラフィー)」から「パッケージングソリューション」へと移行していることが、レーザーテックの事業領域に影響を与えると指摘されました。

  • 微細化
  • これまで半導体の進化を牽引してきた技術で、回路をより細く小さく描くことでチップの性能を向上させるものです。しかし、これ以上の微細化は研究開発コストが膨大になり、製造プロセスも極めて困難になっています。

  • パッケージング技術
  • 微細化の限界が見える中で注目されているのが、複数の異なるチップを組み合わせることで高性能なチップを作り上げる技術です。これは、個々のチップを小さくするのではなく、「レゴブロック式」に様々なチップを統合するというアプローチです。
    レーザーテックは最先端の微細回路を描くためのマスク検査装置(EUVマスク検査装置)を主力としているため、パッケージングが主流になるとその需要が下がるのではないか、という懸念が生まれたのです。

株価の推移と市場の「悲観ムード」

これらのネガティブな情報を受け、レーザーテックの株価は、一時4万5500円まで上昇した時期もあったものの、ずるずると下落傾向にあります。モルガン・スタンレーの格下げ記事や、好調な決算発表にもかかわらず今期の業績見通しが悪いことが影響し、短期的な株価は低迷しています。

レーザーテック<6920> 週足(SBI証券提供)

レーザーテック<6920> 週足(SBI証券提供)

現在、市場には「レーザーテックは終わるかもしれない」という悲観的なムードが漂っていると言えるでしょう。

このような悲観的な見方が広がる中で、長期投資家としての視点から、本当にレーザーテックの将来性は「終わった」と言えるのか、という問いを投げかけたいと思います。私は、そうではないと見ています。

<視点1:短期的なネガティブ要因があっても、長期的な微細化の需要はなくならない>

現在の最先端半導体の需要は、主にAIデータセンターが牽引しています。GoogleやMicrosoftといった企業は、AIサービスの急速な普及に伴い、自社でAIデータセンターを構築・拡張し、インフラとしての地位を確立しようとしています。そのため、従来の計画以上にAIデータセンターへの設備投資を増やすと発表しているのです。

AIデータセンターでは、膨大なAI計算処理のために大量の電力消費とそれに伴う発熱が大きな問題となっています。この消費電力を抑えることは、地球環境の観点からも、半導体チップの性能効率を最大化する観点からも、中長期的に非常に重要な課題です。

そして、この消費電力を抑えるための技術的な鍵こそが、半導体チップの「微細化」です。半導体チップをより細かく小さく作ることで、消費電力を大幅に抑えることが可能になります。

現在、AIデータセンターの最先端プロセスでは4nm(ナノメートル)が採用されていますが、3nmや2nmといったさらに微細なプロセスに移行すると、4nmと比較して15%〜20%以上、あるいはそれ以上に消費電力を削減できると言われています。

AIサービスの普及とAIデータセンターの建設が今後も加速する中で、消費電力の抑制は不可欠であり、微細化の需要が中長期的に減少することは考えにくいと私は見ています。

確かに、超高性能なチップは研究開発や製造コストが莫大ですが、半導体業界の成長の歴史を振り返ると、初期は歩留まりが悪くても、現場の企業努力によって徐々に改善され、製造コストが下がってきました。製造コストが下がれば、iPhoneのような高価な製品だけでなく、AIデータセンター向けなど、より幅広い用途で先端チップの普及が進み、先端チップ全体の需要がさらに高まるでしょう。

TSMCの決算資料からも、この傾向は明らかです。

202508E383ACE383BCE382B6E383BCE38386E38383E382AF-3.jpg

出典:TSMC決算説明資料

例えば、5nmプロセスの売上比率は2023年第1四半期から大きく拡大しています。これは、AI半導体需要の伸びを背景に、4nmプロセス(5nmに含まれる)の生産量が増加していることを示しています。最先端の3nmプロセスも、将来的には同様に生産効率が向上し、AIデータセンターなどで広く使われるようになる可能性が高いです。

これらの7nm、5nm、3nmといった全ての先端製造プロセスにおいて、レーザーテックの検査装置は必要不可欠です。AIサービスの普及によるAIデータセンター需要の拡大、それに伴うAI半導体需要の高まりがあれば、レーザーテックの装置需要も必然的に高まります。消費電力の観点からも、微細化の重要性は揺るがないため、レーザーテックの検査装置は中長期的に見ても必須の存在であると考えられます。

Next: レーザーテックは買いか?長期投資のプロの視点は……

1 2 3
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー