AI投資の持続可能性に関する疑問点とリスク
CEOは強気な見通しを示していますが、市場にはAIブームの持続性について深刻な疑問が存在します。
<投資収益率(ROI)の疑問と短期償却リスク>
現在、Microsoft、Google、Amazonといった各社がデータセンター建設に何兆円もの単位で巨額な投資を行っています。しかし、あるレポートによると、AI設備投資が約100兆円規模であるのに対し、そこから生まれる収益はまだ数兆円規模にとどまっています。
この投資の採算性が合わない最大の懸念は、データの陳腐化の速さです。
データセンターの償却期間は通常20年程度で計画されますが、AI技術の進歩が速すぎるため、今投資したばかりの設備も2〜3年後には、新しい高性能な半導体(例:Blackwell)で動くAIに比べて処理速度が遅くなり、すぐに使えなくなる(償却しなければならない)パターンが想像できます。もし100兆円投資して、3年で30兆円しか儲からない場合、大規模な赤字が発生します。
<循環取引の疑念>
NVIDIAと顧客の間で、資金が循環しているのではないかという疑念も指摘されています。NVIDIAがOpenAIなどの企業に出資し(何兆円単位)、そのOpenAIがデータセンター構築のためにオラクルなどに発注し、オラクルがNVIDIAから半導体を購入してデータセンターを作る、という流れです。
元をたどればNVIDIAの出資金が戻ってきているだけであり、同じところでお金がぐるぐる回っているだけという見方があります。この循環取引の推定分は、NVIDIAの売上高の最大15%に上るのではないかという指摘もあります。これは子会社間での不正会計ではありませんが、疑ってかかるべきグレーな側面だと考えられています。
<物理的な限界と電力制約>
AIの進化には物理的な限界も立ちはだかります。
- 電力インフラの制約:
- 冷却・排熱の問題:
データセンターを作るにも、そもそも電力供給が足りず、稼働できないという問題が生じています。
ブラックウェルなどの高性能半導体は、膨大な電力を消費し、ものすごい熱を発生させます。この冷却・排熱の問題も、AI進化の大きなネックになる可能性があります。
ファンCEOはこれに対し、AIは労働力であり、古いCPUサーバーを新しいAIサーバーに置き換えることで、電力消費を差し引きゼロに近づけられると反論しています。また、国家や重工業といった「ソブリンAI」をターゲットにすることで、外部から大きな資金を調達できると主張しています。
覇権争いの行方:Googleのダークホース化
NVIDIAが現在AI半導体のトップに君臨していますが、この地位が永続するかどうかは不明です。過去のインターネット黎明期において、シスコなどがインフラ企業として強かったものの、収益化に時間がかかり株価の回復に25年を要した事例があるように、誰が覇権を取り続けるかはわかりません。
Google (Alphabet) の優位性
NVIDIAのGPUに対抗する存在として、Googleが独自開発しているTPU(Tensor Processing Unit)が挙げられます。Googleは、TPUを裏側に持つことで、OpenAIの最新モデルを上回る性能を持つ「Gemini」のようなAIを開発しています。
Googleの強みは、そのマネタイズ構造にもあります。
- 自己資金調達力:
- クラウド収益源:
- 顧客基盤:
YouTubeや検索で稼いだ豊富な資金を、AI開発に投入できる点。
AIを利用する企業に対してデータセンター(クラウド)を貸し出しており、そこがすでに収益源となっている点。
顧客に対する接点(検索、YouTubeなど)も押さえており、NVIDIAやOpenAIの強力な競合相手となっています。
もしAI投資が一時的にストップしたとしても、Googleは他の事業で利益を出せるため、投資をストップするだけで済む可能性があり、弱点が見えにくい存在です。
投資家としての考察:時間を味方につける戦い
NVIDIAのCEOは、市場の懸念を打ち消し、AIへの投資を継続させるために強気な発言を続ける必要があります。もしCEOが弱気な発言をすれば、AIバブルは一気にしぼむ可能性があるためです。
AI技術自体は超長期的に見れば間違いなく素晴らしいものですが、問題は「どこかの時点で利益が出せるのか」ということです。巨額の赤字が垂れ流され、資金の出し手(銀行や投資家)がいなくなった時に、一度ストップせざるを得ないタイミングが来るかもしれません。
投資家としては、特定のシナリオに賭けて大怪我をしないよう、様々な可能性を冷静に見つめ続ける姿勢が重要です。
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『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年11月28日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。