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次の金融危機は日本発?「高市ショック」と「日本のウクライナ化」を警戒する海外勢=高島康司

一方、サナエノミクスには指定された17の産業分野に投資をする成長戦略がある。これらの指定された17の産業分野で成長が加速すると、労働力の需要の増大から賃金の上昇率はインフレ率を越えて実質賃金は上昇する。また設備投資の増大から周辺産業を刺激し、景気は上昇する。さらに、設備投資の活発化で労働生産性が上昇し製品価格は下がるので、インフレ率も穏やかになる。

この結果、日本経済全体の国際的な信任は高まるので、国債は買われて金利は下がる。

だが、そうなる現実的な可能性は低い。高市政権はインフレと高金利を容認しつつも、成長によってその負の影響を吸収する戦略だが、現時点では円安とインフレ、そして金利上昇のペースは早く、これが実現する見込みはほとんどない。

海外が指摘する「高市ショック」と日銀の利上げ

これが、いわゆるサナエノミクスの実施で懸念されているマイナスの影響だが、海外のメディアが最近になってさかんに主張している「高市ショック」の危険性はこれだけではない。こうした危険性が指摘される中、日銀は利上げを実施し、政策金利を0.75%に引き上げた。これは、1997年以来の高さである。サナエノミクスとあいまって、これが下手をすると世界的な金融危機の引き金になるのではと懸念されている。これがどういうことなのか説明しよう。

<エンキャリトレードの巻き戻し>

周知のように、ヘッジファンドがほとんどゼロ金利に近い円でローンを借りて、金利の高い他の国々の証券や債権で運用するのがエンキャリトレードだ。これで円建てのローンが世界の金融商品に投資され、金融商品の相場を世界的に押し上げる要因になっていた。

しかし、今回日銀が政策金利を引き上げたことで、エンキャリトレードの巻き戻しが始まっている。ヘッジファンドなどは、円建てローンを返済するために、手持ちの資産の売りを加速させている。この結果、米国債や暗号通貨を始め、あらゆる資産の売りが加速している。巻き戻しは始まったばかりだが、この傾向が継続すると、米国債の売りも加速し、アメリカの長期金利は上昇する。これはドル高の要因となり、円安はさらに加速する。

<日本の機関投資家の本国回帰と悪循環>

しかし、影響はこれだけではない。過去30年間、国内の債券がゼロ金利に近かったため、日本の生保などは米国債や欧州のソブリン債などの外債を購入してきた。しかし、日本の40年物国債利回りは史上最高の3.7%以上に急上昇している。

この結果、大手生保(大地生命、日本生命、富国生命など)は、外国債券の保有を減らし、国内の超長期国債を積み増す計画を公言している。

これは金融市場に甚大な影響を及ぼす。米国債の需要が失われ、米国債利回りが上昇するのだ。すると、米国債利回りは上昇し、その結果、ドル高と円安を助長することになる。

一方、円安は日銀にさらなる引き締めを検討させることになるだろう。日銀の引き締めは日本国債の利回りをさらに押し上げる結果になる。

この繰り返しにより、悪循環は雪だるま式に加速する。世界の資本は、サーキットブレーカーなく着実に市場から流出していく。

G7の放棄からコア5へ、日本のウクライナ化

これが、いま世界のメディアが懸念している「高市ショック」の内容だ。要するに高市政権の国債発行による財政出動と日銀の利上げによって、円安、そして米国債を始めとした債権の売りが加速し、それがまたドル高と円安を促進させるという悪循環に入りつつあるというのが、「高市ショック」で懸念されている危険性なのだ。もちろんこの悪循環で日本のインフレか加速し、実質賃金はもっと下落する。停滞からさらなる停滞へと向かうプロセスの始まりだ。日本の危機はさらに深化することになる。

しかし、さらに問題なのは、この悪循環が起こっている地政学的な環境の変化である。この対応を誤ると、高市政権が引き起こす日本の危機はさらに深いものになる。

この地政学的な環境の変化とは、トランプ政権がG7を放棄し、新たにコア5というグループを作り、これにこれまでG7が果たしていた役割を担わすという構想が提起されていることだ。

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