失う悲しさが強いから
たとえばこんな実験があります。
実験者は、被験者に対して、「今からあなたに、マグカップか、ペンを差し上げます」と言いました。この際に、「どちらも値段は同じ」であることを説明した上で、どちらかをランダムに渡したのです。
そしてそのあとで、全員を集めて、「もし、もう一方のものが欲しければ、みなさんで互いに交換してください」と言いました。
普通に考えたら、ランダムに渡しているため、半分くらいの人が交換してもいいはずですよね。しかし、実際に交換した人は、ほとんどいなかったのです。
これは、今の考えで説明できます。たとえばペンをもらった人が、マグカップに交換する場合。このときその人は、「ペンを失う悲しみ」と「マグカップを得られる喜び」を同時に感じます。
このペンとマグカップは、値段としての価値が同じ。ですので「失う悲しみ」の方がずっと大きく、そのため交換するのがためらわれるわけです。
ビジネスでは、こんな応用が
また、こんな調査もあります。車を買いたいという相手に対して、
- A:車を単体で提示して、必要なオプションをつけるように勧める
- B:車とすべてのオプションをセットで提示して、いらないオプションを削るように勧める
この場合、どちらの方が、多くのオプションを一緒に買ったと思いますか?今までの考えがあれば、分かるはずです。
たとえば、カーナビというオプションが50,000円だったとしましょう。このとき、「カーナビで得られる喜び」と「50,000円を失う悲しさ」は、カーナビと50,000円が同じ価値の場合、後者の方がずっと大きくなります。そのため、ついカーナビを買おうと思う人は少なくなります。
逆に、すでにカーナビがセットに含まれていたらどうでしょうか。この場合、それを削ると言うことは、「カーナビを失う悲しさ」と「50,000円を得られる喜び」を天秤にかけるようなもの。
このときも「悲しさ」の方が強くなるので、今度は、なかなか「削る」という行動はしなくなるもの。
そうです。正解は、B。
最初からすべてをセットで提示した方が、人はたくさんのオプションを買ってしまうものなのです。
これはブティックなどでも同じ。
ベテランの店員さんは、相手がシャツなどに興味を示していたら、とにかく「それには、このパンツとコートとクツなどが合いますよ」というように、セットで売り込んできます。
すると客は自然、そのオプションのうちいくつかをセットで買ってしまうもの。
これが「とりあえずシャツを買わせた後に、他のものを勧める」場合だと、せいぜい買ってくれるにしても、1品くらいでしょう。
いずれにしても、「最初からセットにする」ことは、とても重要なビジネスのテクニックなのです。