「非資源ナンバーワン商社」
ここで伊藤忠という会社について振り返ってみます。
伊藤忠は三菱商事や三井物産と肩を並べる大手商社の一角として数えられます。商社の中でも特徴的なのが、非資源事業への注力です。
三菱商事や三井物産は昨年度、資源価格の下落により創立以来初の赤字を記録しました。一方の伊藤忠は順調な業績を維持し、総合商社の中で初めて純利益ナンバーワンに躍り出たのです。
好調の理由は、資源分野に大きな投資を行っていなかったからです。資源への投資をリスクと考え、食品や生活関連事業への投資を推し進めてきました。その結果、資源価格の下落による痛手を被ることがなかったのです。
伊藤忠が抱える大きなリスクは「中国」
業績も堅調で、一見優良に見える伊藤忠ですが、実は大きなリスクを抱えています。グラウカスのレポートにも出てきた、中国のCITICへの約6,000億円に及ぶ投資です。CITICは伊藤忠の持分法適用会社になっていますが、この出資方法が特殊なのです。
CITICへの投資にあたって、伊藤忠はタイ大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと折半出資会社を設立しました。出資会社がCITIC株式の約20%を取得したことで、CITICは伊藤忠の孫会社となりますが、保有比率は実態として約10%にすぎません。
しかし、形式上持分法適用会社になっていることで、CITICの利益の10%が伊藤忠の連結利益に反映されるのです。この状況では伊藤忠がCITICの経営に重大な影響を与えることはありませんから、連結と言われてもピンときません。グラウカスもこの点を問題にしています。
伊藤忠は2015年初にCITICへ巨額投資を行いながら、当初発表されていたような提携効果をいまだ得ることはできていません。さらに、私もこれまで指摘してきたように、中国は経済成長に関する大きなリスクを抱えています。チャイナ・ショックが現実化することにより、伊藤忠も損失を免れない可能性があります。
割安な株価は、中国リスクを反映したものと考えられます。CITICの業績が急激に悪化したとしても、伊藤忠の経営を大きく揺るがすほどのものではないと思いますが、短・中期的には株価に大きなダメージを与えるでしょう。
伊藤忠への投資は、中国リスクを見極めてからでも遅くないと思います。
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2016年7月29日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。