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「シェアハウス」に例えて理解するフランス大統領選とEU、本当のポイント=矢口新

マリーヌ・ル・ペン(Marine Le Pen)は怪物でも凶人でもない

同候補の経歴等はウィキペディアなどに譲り、ここでは国民戦線の主張を箇条書きでご紹介する。

1. ユーロはドイツのためにあるもので、フランスにとってはあばら骨に刺さったナイフのようなものだ。少しの動きでも痛みを伴い出血する。

2. ユーロ圏を離脱し、自国通貨を取り戻す

3. フランスのEU離脱「フレグジット(Frexit)」の国民投票を行う。

4. フレグジットはフランス人の雇用を増やし、失業率を引き下げる

5. 輸入税と、外国人雇用税を導入する。

6. 保護や国境検査のない、完全自由な貿易や人の移動は望まない。移民を制限し、不法滞在者を追放し、現在、すべての住民に与えられている無料教育を含むいくつかの権利を、フランス国民だけに制限する。

7. 商業銀行が小企業にも貸し出すように仕向け、金利の上限を引き下げる。

8. グローバリゼーションや自由貿易は、フランス経済の妨げとなる。

9. まずEUと話し合いたいのは、フランス政府に主権を返して貰うことだ。自国通貨、金融、財政政策、領土、国境検査、国民のための経済を取り戻す。

10. これらが認められ、EUが各国に自由と主権を認める、新しい「緩やかな結合」になるならば、フランスはEUに留まることができる。

11. でなければ、英国のようにEUを離れることをフランス国民に問いかける。国民戦線はフランス国民を守りたいだけで、別段、理不尽なことを主張しているのではない。

このように、ル・ペン候補が採り上げている問題は、深刻かつ本質的な問題だ。一部の報道にあるような、「極右の差別主義者が、ブレグジットやトランプ大統領に乗じて支持を伸ばしている」だけではないのだ。

フランスを苦しめるトリレンマ

フランス国旗の三色旗は、「自由、平等、友愛」を表している。

しかし、主権と、自由な資金移動と、通貨の固定相場制が同時には成り立たないとする「国際金融のトリレンマ」のように、自由、平等、友愛もまた、同時には成り立たないものなのだろうか?EUやユーロ圏の現況を見、ル・ペン候補の主張を聞いていると、どうもそのように思える。

日本人にとっても身近なのは、グローバリゼーション自由貿易だろう。これらや国際機関がもたらす建前上のメリットを否定する人は少ない。しかし、実際の運営は強者のもとで行われ、弱者は次第に追い詰められていく。

国内グローバリゼーションと自由貿易を掲げる日本の都会と地方のように、現実に世界の格差は広がっている。

米国でも、2017年に入って3200を超える小売店舗が閉じられた。例えば、アマゾンは創業からの数年間、巨額の赤字を続けながらもシェア拡大を優先した。巨大企業のシェア拡大は、中小企業だけでなく、下図のような大企業でも店舗の閉鎖を迫られる。グローバリゼーションと自由貿易の実態は、こういったことを世界中に押し広げているのだ。

誰が世界の経済成長率を押し下げているのか?

一方、グローバリゼーションと自由貿易のもと、米トランプ大統領の保護主義がまだ出現していない2016年に、世界の貿易量の伸びが経済成長率を下回った

2016年の世界貿易量は前年比1.3%増だった。世界の経済成長率は2.3%増で、15年ぶりに貿易の伸びが経済成長を下回った。モノの貿易総額は米国が3兆7060億ドルと、中国の3兆6850億ドルを上回り、4年ぶりに首位に復帰した。米国は輸出入とも前年比3%減だったが、中国は輸出が8%減、輸入5%減で下げ幅が米国よりも大きかった。

金融引き締め政策では、利上げや債券の売却により中央銀行が市中から資金を吸収することで、景気の加速を押さえ、インフレ率を引き下げる。現状の世界経済では、一部の大富豪が巨額資金を吸収することで、経済成長率を押し下げ、デフレ環境をつくっている可能性も否定できない。

Next: 中銀外貨準備担当者の70%がユーロ圏諸国の国債残高を減少させている

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