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日銀の新緩和策が「矛盾とデタラメ」に満ちてしまった本当の理由=近藤駿介

なぜ日銀は難しい言葉を使うのか

公表文で指摘している通り、日銀が本当にいくつかの外的要因で「人々の持つ物価上昇期待」が低下してしまったことが「2%の物価安定目標」を達成できなかった原因だと考えているのであれば、一般の人には通じない言葉を連発するのは誤ったやり方だ。金融・経済の専門家でもほとんど耳にしたことのないような言葉を羅列しても、意味が分からない一般の人々の抱く「物価上昇期待」に働きかけることは出来ないからだ。

「『マネタリーベースの拡大方針を継続する』と約束することで、『物価安定の目標』の実現に対する人々の信認を高める」ことが出来ると思い込んでいるところが悲しいところ。「マネタリーベース」を正しく理解していない一般の人達にとっては「???」

人々の「物価上昇期待」に働きかけようとするのであれば、人々が理解できる分かりやすい言葉で説明し、納得させなければならないというのが一般常識。要するに、日銀が打ち出した「金融緩和強化のための新しい枠組み:長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は、訴えたい相手に対して、間違ったアプローチをしているということだ。

今回日銀が、一般の人達には理解できるはずのない、金融・経済の専門家でもほとんど耳にしたことのないような言葉の羅列をしたのは、「人々の物価上昇期待」に働きかけようとする強い意図の表れでなく、これまで「2%の物価安定目標」を達成出来ていないことに対する批判をかわす目的が強かったからに他ならない。

分かりやすい言葉で説明をしてしまうと、「異次元の金融緩和」で「人々の物価上昇期待」を醸成することは難しいことが露呈してしまうからだ。何しろ「物価上昇期待」を持つ主体は「人々」であるから、論理的矛盾は、人々が理解すればするほど露呈していく関係にある。一般の人達に理解できるはずのない言葉を羅列したのは、「人々」に、「物価上昇期待」を持つ主体が「人々」であることを気付かせないためであったと言える。

繰り返される「間違ったアプローチ」

日銀がこうした間違ったアプローチをした背景には、「間違った成功体験」がある。

2013年4月に「異次元の金融緩和」に踏み切った時に、「マネタリーベース」という一般の人が聞いたこともない専門用語に、「2倍、2倍」と超シンプルなフレーズをトッピングすることで、「人々の円安・株高期待」に働きかけることに成功した。

メディア等で「黒田バズーカ」などと称賛されたこうした成功体験が、一般の人達が理解できない専門用語を使えば、一般の人達の「物価上昇期待」を上昇させることが出来るという誤った情報が黒田日銀内にインプットされる大きな要因になったと思われる。

しかし、それから3年半が経過し、「人々の物価上昇期待」に働きかけることに失敗したという結果が出た今、「一般の人達に理解できない専門用語を羅列することで人々の物価上昇期待を引き上げる」という同じ手は通用するはずもない

今回の「総括的な検証」では、本質とは関係のない多数の検証が行われている。しかし、「人々の物価上昇期待」に働きかけられるかが最重要である金融政策の説明を、一般の人達が理解できない専門用語を羅列して行うことの効果についての検証は一切行われていない。

金融政策分野においては、一般の人達に馴染みのない専門用語や横文字を使う人の話はほとんど内容がないものだ、というのが通り相場になっていることを理解していない日銀が、「人々の物価上昇期待」に働きかけるというのはかなり高いハードルだと言える。

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内容は、

  • 我田引水検証
  • 「金融緩和強化のための新しい枠組み」は「金融引締め」である
  • 「イールドカーブ・コントロール」という名のもとの引締め策
  • 日銀は長期金利を誘導できるのか?~ Yes, BOJ can !
  • 「イールドカーブ・コントロール」は「意図せざるテーパリング」

【関連】日銀の新政策は追加緩和ではなく引き締め。株高・円安は短命に終わろう=馬渕治好

【関連】株も不動産も奪われる! 預金封鎖よりも怖い「財産税」の傾向と対策=東条雅彦

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近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年9月26日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動してきた近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。

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