fbpx

人間はAIに敗れるか?投資の世界に訪れるシンギュラリティ(技術的特異点)=田渕直也

理想的な投資家としての資質をもつコンピュータ・アルゴリズム

以上のように、相場の世界はコンピューターが非常に広範に活用されている世界です。“活用”などという生易しい表現は適切ではありませんね。世界の金融市場は、文字通りコンピューターが席巻している場所なのです。米国でも、日本でも、株式市場での取引の6割ほどがアルゴリズム(主にHFT)によるものとされています。

つまり、一般投資家が株を売買するとき、その相手側はアルゴリズムだということが普通に起きているわけです(それを知ることはできないけど)。

また、OTC型(取引所取引でない)FXなどでは、取引している相手はFX会社のアルゴリズムそのものですよね。

このような売買の相手となってくれるアルゴリズムなら、いざという時に頼りにならない(本当に売りたいときに買ってくれないとか、とんでもなく低い価格を提示するとか)という問題はさておき、基本的には一般投資家の利害と対立するわけではありません

でも、ルネッサンスのように、精妙に構築されたアルゴリズムが高速で収益機会を軒並みかっさらってしまったら、一般投資家の出る幕はなくなるわけで、そうした点ではアルゴリズムと一般投資家の利害は対立しているといえます。

さて、このように相場の世界で広範にコンピューターが活躍しているのは、なぜでしょうか。いうまでもなく、それが有用だからです。

優れた(人間の)投資家というのは、例外なく、過去の相場の歴史を熟知しています。自分が経験したものは当然として、経験していない遠い過去の値動きまで詳しく知っている人も少なくないでしょう。また、金利や為替、株価など異なる市場がどのように連動して動くかということも、経験から多くのことを知っています。

過去に起きたイベントで、その時どのような経済状況だったか、誰が何を言い、どのようなニュースが流れ、それらに対してそれぞれのマーケットがどのように反応したか、などを把握しているのです。

そうした過去の出来事や値動きなどの豊富な情報から、相場ではこういうことが起こりうるとか、特定の状況や相場変動パターンのあとにどのようなことが起こりやすいかというようなことを瞬時に判断しているわけです。

そうした情報の種をどれだけ広範に持っているか、それを記憶の引き出しからいかに効率よく適切に引き出して、今の相場展開に当てはめられるかが、トレーダーの腕を決めるわけです。

でも、今言ったことは、コンピューターが最も得意な分野ではないでしょうか。膨大な過去の経済状況や値動きを記憶し、いくつもの市場の複雑な相関関係を計算したり、相場変動のパターンを探り当てたり、過去のデータに照らして、ある戦略が利益を生む確率を計算したり、そういうことなら適切にプログラミングされたコンピューターが最も得意とする分野であるわけです。

ルネッサンスの強さは、こういうふうに考えると、ある意味で当然のことだとも思えますよね。

また、トレードの失敗の多くは人間の心理的な偏りがもたらすものです。思い付きで判断し、見かけ上のパターンに惑わされ、周囲に流され、ときに無謀なリスクをとり、本当にチャンスが転がっているときには怖くて手を出せず、小幅な利益で満足し、自分の失敗を認めたくないがゆえに損切が出来ずに致命的な損失を被ってしまう。

コンピューターならば、こうした弱点を克服することも可能です。

ちなみに、全自動型のアルゴリズムでも、一般には緊急時に人間の判断で停止させたり、人間が介入したりする安全策が施されるのが普通です。でも、バーチュでは1238日で損失を出した唯一の日はその人為的な介入のミスによるものでした。リベリオンでは、アルゴリズムがうまくいっていないと考えて止めようとしたけど、止めずにいたら結局アルゴリズムの方が正しかったという話でした。

人間はアルゴリズムにすべてを任せることを危険だと考えるわけですが、それが本当に優れたアルゴリズムなら、悪い結果を招き寄せる大きな要因は実は人間の方だったということが多いのです。人こそがミスの源というわけですね。

Next: 人工知能開発にブレークスルーをもたらした“ディープラーニング”

1 2 3 4
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー