人工知能開発の最前線になりつつあるヘッジファンド業界
投資の世界でも、こうした新世代の人工知能が既に使われています。リベリオンのアルゴリズムである「スター」は、2009年初頭に株を買いまくり、大成功しました。
当時の市場は悲観一色で、スターを監視していた担当者が、スターがおかしくなったと思ったのだけど、結果としてはスターが正しかったということでした。
スターの判断力は、同じ時期に株を買って大成功したデビッド・テッパー並みだったわけです。このスターにも機械学習が取り入れられています。
近年大成功を収めて巨大ファンドに急成長しているヘッジファンドのツーシグマもまた、ディープラーニングを含む最先端のAIを全面的に採用している新興のファンドです。こちらも非常に優れた運用成績を残しています。
創業者の一人、ジョン・オーバーデックは数学オリンピックのメダリスト、もう一人のデビッド・シーゲルはAIやロボットのプログラミングを学んだ人物で、メンバーの大半に数学者や人工知能研究者をそろえるルネッサンス型のクオンツファンドです。
また、レイモンド・ダリオ率いるブリッジウォーターは世界最大級のヘッジファンドとして知られていますが、IBMで「ワトソン」という人工知能の開発チームを率いていたデービッド・フェルッチを(恐らく大変な高報酬で)引き抜いています。
人工知能と一口に言ってもピンからキリまで様々なレベルのものがあり、本当に人間の能力を凌ぐほどの最先端の人工知能の開発には、巨額の研究資金と、世界でも一握りといわれる一線級の研究者が必要です。
ですから、本格的に研究開発に取り組める業界も限られるわけですが、ヘッジファンド業界は、莫大な資金力と、他の業界では決して実現できない巨額報酬によって、まさにその最前線の一つとなりつつあります。
一流の研究者だったシモンズがヘッジファンド業界に転じてけた外れの億万長者になったことは、人並み外れた知力を持つ一流の研究者にとって、輝ける先例であるに違いありません。
人工知能の能力が人間の能力を上回ってしまうことを「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼んでいます。総合的な能力という点で、はたして本当に人間の能力を上回る人工知能の開発が可能かどうか、様々な意見があるようですが、特定分野において人工知能が人間を凌ぐことは現実に起きつつあります。投資の世界はその最も顕著な例の一つというわけです。
そして、その影響は甚大です。次回は、その点について考えていくことにしましょう。
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『田渕直也のトレードの科学 Vol.036』より抜粋