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2018年夏上陸「日本版グラミン銀行」はサラ金とこの国の貧困に勝てるか?=田中優

「日本版グラミン銀行」に立ち塞がる我が国の問題点

しかし「ファイナンス」という概念がその国の文化とぶつかることもある。たとえば、文明とあまり接触していないアフリカの地域では、「借りて返す」という文化がない。そこでは、みんなで無償の寄付を行うことが多い。

たとえば優秀な子どもが先進国に留学するとなれば、周囲のみんな(同じ部族であることが多い)がカンパして行かせるのだ。しかしそれは必ずしも美談ではない。帰国して社会的地位を築いたならば、縁故でいい仕事をもらったり、会社で採用してもらったりするからだ。こうした「返済する」という文化のないところでは、マイクロファイナンスが成功しないのだ。

また、タイでマイクロファイナンスを実施した例では、先進国の人たちが元手を出した銀行では返済されず、彼ら自身が出資した銀行だけが成功できた例もある。銀行のオーナーシップに大きな差が出るのだ。

そのような状況で始められようとしているのが「日本版グラミン銀行」の仕組みだ。設立を準備している財務省出身の菅正広・明治学院大学院教授によれば、グラミン銀行と同様に5人の「連帯責任者」を組んでもらい、そこに最大20万円の融資額(初回)を行うという。

例えばシングルマザーが家事代行サービスを始めたり、資格をとったりするのに必要なお金を貸します。菅さんは「所得が少ない人で、働く意欲と能力があればだれでも対象になる」と話します。<中略>

「連帯保証」ではないので互いの借金をかぶるわけではありませんが、一定の不利益が生じる可能性があります。<中略>

「お金を貸して終わり」ではなく、返済まで仲間や銀行が伴走するのです。

※出典:「日本の貧困」にも有効? グラミン銀行、来夏上陸へ – NIKKEI STYLE(2017年11月7日)

またマイクロファイナンスに詳しい日本総合研究所の井上岳一シニアマネジャーは、

『起業』というと大ごとですが『小商い』したいという人はけっこういるのです。例えば都会で非正規で働いていた人が田舎でパンの店を開きたいとか、シングルマザーがネイルサロンを開きたいとか。軽トラを買ったり店の改装をしたりするちょっとしたお金があれば、人生をやり直せるという人は少なくありません。そこにお金が回っていないのです。

※出典:「日本の貧困」にも有効? グラミン銀行、来夏上陸へ – NIKKEI STYLE(2017年11月7日)

と説明する。こうした小さな資金需要に対して個人的な融資をするのではなく、共同責任者のつながりや銀行の伴走支援を通じて生活困窮者に解決の可能性を示したいというものだ。

そもそも日本では、護送船団方式と呼ばれる政府の過干渉により、一部の財閥にしか銀行は設立できない。日本では特に金融分野に非常に多くの過干渉的な規制がある。現在でも、多額の資金と共に「まったく新しい試み」でない限り、新たな銀行の成立は認められないことになっている。しかも「まったく新しい試み」であるかどうかは規制庁の判断次第であり、単に規制された金額以上の資金を積むことも認められないのだ。

そんな日本に対し、長年にわたって市民社会を築いてきた他の先進国ではまったく違う。新たな銀行を作るのは、「市民の権利」と考えられている。

ところが我が国では、日本版グラミン銀行を作ろうとする人たちの言う、「初回の融資額は最大20万円。例えばシングルマザーが家事代行サービスを始めたり、資格をとったりするのに必要なお金を貸す」という形態が、規制庁に「新たな試み」として認められなければ、銀行として設立することができないのだ。

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