脱出策としての一帯一路
バブルの破綻と過剰生産不況の可能性は、大変に深刻な問題である。国民の反発から、共産党政権の命取りにもなりかねない深刻な問題である。そのようなとき、2013年に国家主席となった習近平は大胆に方向を転換した。欧米先進国を主要な輸出先とした「世界の工場」としてのかつての発展から、鉄道網や海路の整備によって新しい市場を開拓し、特に内陸部を重点的に発展させる方向へのシフトである。これは、外需依存の発展から内需による発展へのシフトでもある。
それが、現在急速に拡大している一帯一路である。周知のように一帯一路とは、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパに至る1万1000キロの鉄道網の「シルクロード経済ベルト」と、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、そしてアフリカ東海岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」の2つの地域で、インフラを整備して貿易と投資を促進する国家プロジェクトである。さらにこれには、北極海航路と北米航路も含まれている。
この一帯一路によって、安い労働力を提供し、世界の工場たる中国の発展を支えた農民工の出身地である遅れた内陸部は、中央アジアとヨーロッパに鉄道網で直接結ばれた。そして一帯一路による市場の拡大は、2009年以降次第に深刻になっていた製造業の過剰生産を解消する可能性が見えてきた。この結果中国は、ユーラシア全体を包含する広大な中華経済圏の中心として発展する方向が明確になった。もちろんこの発展を加速することで、共産党政権への支持は高まり、政権は安定する。
資本を国内に循環させるためのビットコイン規制
逆に見るとこれは、中国共産党の支配が今後も継続できるかどうかは、一帯一路の成否にかかっていると言ってもよいかもしれない。このような背景を前提にして、中国のICOやマイニング、そしてビットコインの禁止や規制を見ると、その真意がよく見えてくる。
一帯一路の拡大には莫大な資本と投資が必要になる。中国政府はこれを強力に後押ししているものの、国内の資本が確実に一帯一路のさまざまなプロジェクトへと投資される循環を形成しなければならない。そのため政府は、人民元を高値安定させ、さらに国内の富裕層の資金の国外移転を防止する目的で、5万ドルを越える外貨の購入を実質的に禁止している。
一方ビットコインは、この規制の抜け穴として機能した。最近までビットコインによる送金は規制の範囲外だったので、富裕層はビットコインの購入を経由してドルなど他の外貨に交換した。一時ビットコイン取引の9割は中国になるほどだった。これは一帯一路を発展させるために資本の国外流出を警戒している政府とっては、由々しき事態であった。
さらに7割が中国に集中しているマイニングの利益のほとんどは、やはりビットコインを経由して外貨の購入に向かい、中国国内に再投資されることはほとんどなかった。
こうしたことが、中国政府がマイニングやビットコインの規制に動いた背景なのである。それは、一帯一路の発展に支配の安定がかかっている中国共産党にとっては、非常に重要な問題だったのである。