米国株は大きく下げました。やはり、投資家がトランプ政権の政策にかなり不安を持ち始めているということが、売りにつながっていると考えます。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて)
本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年3月26日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。
続々と出てくる米国経済の悪材料。ダウ平均の想定レンジは?
政策混乱で買い控え
米国株は大きく下げました。理由は単純です。米中の「貿易戦争」に対する懸念が広がったことです。
20・21日のFOMCもそのきっかけになったと指摘する向きもありますが、私はそうは思いません。やはり、投資家がトランプ政権の政策にかなり不安を持ち始めているということが、売りにつながっていると考えます。
それにしてもひどい下げです。ダウ平均はとうとう23,533ドルまで下げてしまいました。これは約4カ月ぶりの安値水準です。ナスダック総合指数も6,992で、節目の7,000を割り込みました。
今回の下げは、トランプ大統領が22日に最大600億ドル規模の中国製品に25%の関税を課す貿易制裁措置を決定したことにあります。その前の鉄鋼・アルミニウムに関税をかける政策も懸念材料ではありましたが、中国への直接的な報復関税は完全にダメ押し的な下げにつながりました。
市場では、米中間の報復の応酬がエスカレートすることへの懸念が高まっています。
23日には、トランプ大統領が18年会計年度歳出法案に署名し、政府閉鎖が回避されたことから、ダウ平均は一時150ドル上昇する場面がありました。しかし、この日の終盤に売りが加速し、下げ幅を大きく拡大したのです。週末にどんな政策が出てくるかわからない、そんな不安心理が売りを加速させたのかも知れません。
一方、トランプ政権は23日に鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置を発動しました。これに対して、中国は23日に128品目に及ぶ報復対象を発表しています。
フェイスブック問題も株安要因に
また、16年の米大統領選でフェイスブック利用者の個人情報が不正に利用されていた問題も株安につながっています。
個人情報を扱うIT企業に対する規制が強化されるとの警戒から、フェイスブックだけでなく、アルファベットやアマゾン・ドット・コムなどのIT株が広く売られています。これらの銘柄が売られるようだと、これまでのIT株主導での株価上昇シナリオが完全に崩れることになります。
米国のここ最近の株高は、明らかにIT株が牽引しています。それが根底から崩れるようだと、米国株全体に対する見方も変えなければならなくなります。
悪材料が続々と
それにしても、悪材料がここまでよく揃ったものだと思います。
22・23日の大幅安で、VIXは20の節目を超えてきました。これは短期的に株価の変動が大きくなることを意味します。その意味でも、かなりの警戒感が広がることになります。押し目買いも入りづらいでしょう。本当にひどいことになったものです。
これまでは、トランプ政権は株価を意識した政策運営をしてきたと考えます。しかし、今回の対応を見ていると、それよりも対中政策を強硬に推し進めることを優先しているように見えます。この点は、のちほど詳しく解説したいと思います。
また、政権メンバーに関しても、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が4月9日に辞任すると発表されました。後任には対外強硬派とされるボルトン元国連大使が就任する見通しです。
マクマスター氏はホワイトハウスの外交・安保政策の取りまとめ役で、北朝鮮問題への対応などに影響が及ぶ可能性が指摘されています。マクマスター氏は現役の陸軍中将で、補佐官辞任に伴い、軍からも退役することになるといいます。マクマスター氏は昨年2月にロシアによる米大統領選介入疑惑に絡み辞任したフリン前補佐官の後任に起用されました。
今回の辞任により、トランプ政権は発足から1年余りで3人目の安保担当補佐官を迎えることになる。これでは市場の信用が保てるわけはありません。