fbpx

トランプ劇場が招く米株安。米中貿易戦争の長期化でダウ平均2万ドルも=江守哲

保護主義政策を強引に進める理由

今回の措置は様々なことが重なった結果ですが、ペンシルバニア州の選挙に間に合わせるというよりも、そもそもの米国内の構造に起因しているといえます。

つまり、景気の拡大と需要の増加に対して、国内生産が減少する一方、輸入が増加したことが背景にあります。さらに、鉄鋼やアルミにかかわる雇用も減少したことも、今回の措置に走らせた可能性が高いといえます。

国内産業を復活させることを公約に大統領選で当選したトランプ大統領は、貿易赤字の縮小も併せ、公約を実行するために今回の措置に向かわざるを得なかったのです。

ムニューシン財務長官は、鉄鋼・アルミの輸入制限について「保護主義ではない。不公正な貿易慣行の結果だ」と強調しています。また、「米国は自由で公正、互恵的な貿易を求めている」とし、貿易戦争に発展しても「米国の市場と経済規模を考えれば、トランプ大統領はそれを恐れないと言っている」としています。さらに「より大きな損失を被るのは相手国だ」とし、「貿易戦争がわれわれの目的ではない」としています。

米国「自国が優位な立場にあればよい」

とにかく、米国は貿易において、自国が優位な立場にあればよい、ということです。それ以上でもそれ以下でもないでしょう。

そもそも、米国内の鉄鋼・アルミ業界の衰退の背景には、ひとつは米国企業の競争力の低下、もうひとつが中国の過剰生産能力を背景とした大量の供給があります。中国が余った鉄鋼・アルミ製品を国外に供給し、それが米国市場を駆逐したということです。これらの中国製品に関税がかかれば、当然競争力は低下します。

一方で、試算によると、今回の措置を導入した場合でも、最終製品の価格に与える影響は限定的とみられています。その意味では、消費者への影響は大きくない可能性があります。

そうであれば、なおさら中国いじめをしやすいということになります。

しかし、これらの政策は国際協調派であるゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長から見れば、耐えられないものだったといえます。意見が合わないのですから、自ら辞任するのも仕方がなかったといえます。

ヒラリーが掲げた政策に酷似している?

ところで、共和党政権のトランプ大統領就任後の株価動向が、過去の民主党政権下でのそれに似ているという、非常に興味深い事実があります。

その理由を考えると、今回のトランプ政権が取ろうとしている政策は、本来は民主党政権がとるはずだったものではないかということです。つまり、大統領選挙の対抗馬だった、民主党のヒラリー・クリントン氏が掲げていた政策とかなり似ているということです。

クリントン氏はTPPに反対していました。クリントン氏が大統領になっていたとすれば、おそらく同じ政策を取っていた可能性があります。

そのような背景もあり、現在のトランプ政権下の株価は、民主党政権下での株価動向に似ているのではないかと考えられるわけです。

いずれにしても、これまでの米国の貿易・経済構造を背景に、貿易赤字が膨らんでしまうことから、これを解消することが求められているわけです。

それを行うために選ばれたのがトランプ大統領だったことになりますが、実際にトランプ大統領が選ばれたのは、それが直接的な理由ではありません。この点については、私の新しいメルマガ『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ(初月無料)』をご購読ください。

それはともかく、選挙戦ではラストベルトの人々の心に訴え、結果的に選挙に勝利したことになっています。中間選挙も考慮すれば、同じような戦略で彼らに訴える政策を取るのが、筋も通っています。

関税率の面でいえば、米国の輸入の方が低いものが少なくなく、欧州勢は文句を言っていますが、むしろ米国からの改善率が低いものがあります。車が典型でしょうか。

実は欧州の方が米国よりも、自動車の輸入関税が高いという事実があります。そう考えると、米国の言い分は実は筋が通っています。トランプ大統領が強気になれるのもわかります。

Next: 世界貿易の赤字を一手に引き受ける米国。まともに戦えば中国が負ける?

1 2 3 4 5 6 7
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー