まともに戦えば中国が負けるが…
世界の貿易収支の中身を見れば、米国が赤字をほぼ一手に引き受けています。
これでは、米国が今の戦略を進めようとするは当然といえます。もちろん、自国の競争力のなさを棚に上げての話ですが。
いずれにしても、米国からすれば、いくらでも不均衡を突くネタがあるわけです。
中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟しましたが、その後の市場開放が進んでいないことは明白です。その意味では、中国もかなりの弱みがあります。「米国が関税の引き上げを止めるまでつきあう」などと言っているようですが、まともに戦えば中国が負ける可能性が高い状況です。
しかし、中国はしたたかです。今回の米国の政策に屈する可能性は低いといえます。
米国は「ドル安政策」をさらに進める
そうなれば、米国としてできることは、自国通貨の切り下げです。つまり、ドル安政策のさらなる深化です。これにより、間接的に輸入品に対して関税をかけるような形にするわけです。こうすれば、競争力が低下します。貿易不均衡を是正すると公言し、力技で向かってくる可能性があります。
しかし、為替レートの切り下げ的な動きは、G20での合意でやってはいけないことになっています。
とはいえ、米国が発行するドルは基軸通貨です。最終的にドルを発行できるのは米国だけです。どうにでもできてしまいます。
やっかいな為替レートの問題
中国は今回のFOMCでの利上げに追随して利上げを行っていますが、これは先進国の仲間入りをしたいことの表れと思われます。しかし、習近平一強体制が加速する中、各国にそのような立場を認めさせるのはそう簡単ではありません。
為替レートの問題は、本当に厄介です。
昔は貿易のバランスで為替レートが決まっていた面がありました。実際にそれで説明がついていた時期もあります。しかし、いまは資本取引の規模が大きくなりすぎ、経済構造だけで為替レートの水準や動向はむしろ説明できなくなっています。
こうなると、資本移動が為替レートを決めることになり、金利の高い国に資金が流れることになり、貿易赤字の実態を無視して資金が流入するといったことが起きることになります。このような状況になると、貿易の状況だけで為替レートの説明はできなくなります。無論、米国の赤字の拡大傾向は続いてよいことになります。
結果的に通貨高になると、自国の製造業の空洞化が加速する一方、通貨安政策によってその歪みを是正しようとする力が働くことになります。
トランプ政権は、関税をかけることで貿易不均衡を「数の論理」で解消しようとしています。しかし、それが難しいということになれば、この政策を「価格の論理」に変換する可能性があります。そうなれば、為替レートが大きく影響を受けることになります。
思い出すと、日本は90年代に超円高を経験しました。為替レートによる不均衡の是正を強いられたわけです。
そして、今回の米国のターゲットは日本ではなく、中国です。