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訪日観光客が「Suica」をベタ褒め。アップルが惚れた技術と世界統一への明るい未来=岩田昭男

Apple Payへの取り組み

こうしてSuicaは、日本で2016年に発売された「iPhone 7」に搭載されて、Apple Payの普及の手助けをすることになったのです。

アップルの考えを短い期間に具体化するのは大変に難しいものでした。アップルとの議論やすり合わせはアップル側の秘密主義に阻まれてなかなか進みませんでした。米国本社とのやり取りも言葉の問題などでちぐはぐなものでしたが、アップル側がSuicaに惚れ込んでいたので、基本的なところはJR東日本の要求を飲んでくれました。これは本当にラッキーでした。

アップルがSuica搭載にこだわったのは当時スティーブ・ジョブスが亡くなった直後で、新しい成長分野を探していた時だったからです。ジョブスは金融や決済にはまったく無関心でしたが、アップルにとって金融や決済はやはり避けては通れない分野であり、最も相性が良く収益の見込める分野であるとCEOのティム・クックは考えていたようです。

ただ、その際にどのプレーヤーと組んだらいいのかで悩んでいたといいます。そうしたなかでJR東日本のSuicaなら、母体もしっかりしているし、単なる決済カードではなく、乗車券としても活用できるという点を評価してビジネスパートナーとして選んだといわれています。

最先端の発想による前代未聞の決済ツール

アップルやJR東日本の関係者に取材すると、Apple PayでSuicaを使えるようにするための技術開発は試行錯誤の連続だったようです。

たとえば、SuicaカードそのものをiPhoneに取り込むのにどうするかで、開発スタッフは頭を悩ませました。そして得た結論は、Suicaカードの情報をそのまま吸い取ってスマホの中で新たな仮想Suicaを作り、そちらにバリューを移してしまうというものでした。

ここに新しい技術が使われました。1,000円がチャージされていたSuicaカードがiPhoneに吸い込まれた途端に、元のSuicaカードの残高はゼロ円になってしまうのです。不思議な現象ですが、お金を残さないようにしないとiPhoneに移すたびに1,000円増えることになってしまいます(カンタンな技術だと技術者は言っていましたが、その仕組みは秘密ということでした)。

さらに、加盟店に購買者の履歴を渡さないトークンという仕組みも考えられました。これは、店に残した購買情報を悪用した不正利用を防ぐためです。カード情報は暗号化して店に残らないようにして、処理が終わったら暗号を解いてカード会社に送るという方法です。これまでのクレジットカードでここまで徹底した防犯対策を講じている例はありません。

また、「Suicaファースト」を名乗っていることもあって、Suicaの機能を補強するための乗り換え情報アプリをダウンロードできるようになっていて、通勤や旅行に役立つようにサポートしています。

このようにApple Payは、それまでのカードの概念を変える革新的な技術が多く組み込まれていました。リアルのカードライフをそのままスマホの中に置き換えようという画期的なものだったのです。

Next: カード業界の盟主VISAとAppleの話し合いが決裂。Suicaが世界覇権を握る?

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