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世界で加速する米国離れと多極化、その中心は日本~日中韓ロの一大貿易圏が生まれる=高島康司

300を越える分野で米国産業は劣化

この報告書を見て驚くのは、アメリカの国防産業の劣化の実態が詳細に分析されていることである。すでにロシアや中国との間では、すでに300ほどの領域でアメリカの国防産業の劣化が進行しており、深刻な状況だという。深刻さを認識してもらうために、いくつかの例を見てみる。

<数値制御工作機械のドイツ依存>

精密兵器の製造にはなくてはならない数値製造工作機械は、すべてドイツからの輸入に依存している。

<レアアースの供給は中国依存>

90年代初頭まではアメリカ国内でもレアアースの掘削産業は存在していたものの、いまはない。精密兵器やIT機器みはなくてはならないレアアースは、すべて中国からの供給に依存している。

<ASZM-TEDA1添着炭>

化学兵器や有毒ガス、また放射能ガスの防御機器の製造には欠かせない物質、「ASZM-TEDA1添着炭」の国内メーカーのほとんどは倒産しており、すでに1社しか残っていない。「ASZM-TEDA1添着炭」は72種類の防御機器で使われている。

<精密兵器用IT基盤>

精密兵器はプリントされたITの基盤を必要としているが、この分野でも米国内のメーカーはほとんどが倒産しており、1社しか残っていない。

このような分析が300を越える領域について書かれており、延々と書くと長くなるので、このくらいにとどめる。報告書を読むと、アメリカの国防産業の劣化の状況がよく分かる。

倒産、熟練工不足、海外サプライチェーンの依存

このような劣化を引き起こしている最大の原因は、グローバリゼーションによって製造業が空洞化したことだとしている。米国内の製造業では倒産が相次いだ結果、最先端の兵器の製造には欠かせない特殊部品メーカーが消滅しつつあるという。

たとえば、海軍艦艇のためのプロペラのシャフト、戦車の砲塔、ロケット燃料、ミサイル用の精密赤外線探知機などのメーカーはすべて倒産した。その結果、最先端の兵器製造にはなくてはならないこうした部品の供給は、中国を中心とした海外のサプライチェーンに完全に依存した状態だ。また現状では、装甲車や海軍の艦艇、軍用航空機の製造には欠かせないアルミプレートの生産も危機的な状態だ。

さらに、こうした兵器用部品メーカーの倒産とともに、働いていた熟練工の多くは解雇され、国防産業から去った。特に、工作機械、溶接、エンジニアリングなどの分野が深刻な熟練工不足の状況にある。

一方、国防総省は、これまでも機会を見て国防産業の現状把握に努めてきた。しかしその調査は、今回の報告書のように詳細なものではなく、国防総省と契約しているロッキード・マーチンやボーイングのような巨大企業に調査をしても、国防産業の基盤がどのような状態にあるのか分からなかったとしている。

ロッキード・マーチンやボーイングは多くの種類の軍用航空機を生産しているが、その製造は無数の部品を供給しているメーカーに依存している。これらのメーカーは国防産業に特化しているわけではなく、一般の製造業のメーカーなので、グローバリゼーションによる国際競争に敗退し、生産拠点を海外に移転するか、または倒産してしまった。

その結果、ロッキード・マーチンやボーイングのような会社は、中国やEUを中心とした海外メーカーのサプライチェーンに、部品を発注しなければならなくなっている。こうした、国防産業内部の脆弱性は詳細な調査を待ってはじめて明らかになった。

Next: トランプの決意「2025年までに国防産業を再建する」で世界は混乱へ

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