14日の日ロ首脳会談で、両国は領土問題の解決に向けて平和条約交渉を加速させることで合意しました。これは安倍政権にとっても日本にとっても、大博打です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2018年11月16日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
平和条約締結に立ちはだかる3つの壁。失敗なら安倍政策も窮地に
平和条約交渉加速で合意
ロシアのペスコフ大統領報道官によると、安倍総理とロシアのプーチン大統領は14日、アセアン会合が開かれているシンガポールで首脳会談を開き、領土問題の解決に向けて、平和条約交渉を加速させることで合意したと述べました。
これを受けて、日本の菅官房長官も15日午前の会見で、14日の日ロ首脳会談で、1956年の日ソ共同宣言を基礎に、つまり「平和条約締結後に、歯舞・色丹の2島を日本に引き渡す」との前提で平和条約締結交渉を加速させることで合意したとの認識を示し、これを前向きに評価しました。
もっとも、官房長官はあくまで4島一括返還を求める日本の姿勢に変化はないとしています。
安倍総理には起死回生策にも
これには伏線がありました。先のウラジオストックでの共同会見の場で、安倍総理が記者席に向かって日ロ平和条約締結に向けて応援を求めたのを受けて、プーチン大統領が即座に「今頭にひらめいたのだが、年末までに何の前提もつけずに平和条約を結びましょう。すべてはそれからだ」と返されました。安倍総理は笑顔でしたが、永田町はパニックになりました。
北方領土問題はさておいて、先に平和条約を結ぶということは、その時点で両国の国境は確定するわけで、もはや領土問題は存在せず、北方領土の返還交渉はできなくなることを意味するからです。いわば、公衆の面前で安倍総理に泥をかけられたプーチン大統領が、仕返しに安倍総理の頭近くに「ビーンボール(反則投球)」を投げてきたようなものです。
そこまでの認識がなかった安倍総理はニコニコしていましたが、菅官房長官以下、自民党幹部は即座に日本の立場を確認し、火消しに躍起となりました。
それでも、かつてプーチン大統領は1956年の日ソ共同宣言に沿った解決をと言っていたので、平和条約締結後に、歯舞・色丹の2島を返還してもらうことに賭け、交渉を進めることになったようです。
日本の立場はあくまで北方4島一括返還となっていますが、これはかつて米国に横やりを入れられたことによる認識で、本音は2島返還で御の字のはずです。従って、懸案の日ロ平和条約を締結し、そのあとに歯舞・色丹の2島を返還してもらえれば、安倍政権にとっては、数少ない「成果」となり、苦境にあえぐ安倍政権には「起死回生策」となると期待されています。