「日米安全保障条約」が邪魔をする?
しかし、56年共同宣言に依拠した返還交渉には、これを阻む3つの壁があります。
1つは、日米安全保障条約の壁です。日米間には、正確に言えば日本政府と米軍との間には日米安保条約に関わる「密約」があって、米軍は日本国内のどこでも軍事行動を起こすことができ、日本政府はこれを拒否することができません。米国政府幹部でさえ知らず、その存在に驚くほどの代物です。
このために、北方領土が日本に返還されると、米軍は原則、北方領土で軍事活動を起こすことができ、そこに米軍基地を置くこともできます。日本政府は口出しできません。北方4島に米軍基地を設置すれば、ロシアにとっては大きな脅威となり、これは許容できないはずです。
結局、北方領土の返還に当たっては、ロシアからすれば、米軍が基地もおかず、軍事行動を起こさないことが前提となります。
このため、日ロ平和条約締結には、現行の日米安保、およびその密約のもとでは、米軍の存在がネックになり、米軍の了解をとるか、日米安保を破棄するかしないと交渉が進まないことになります。
ただし、この壁が100%突破できないわけでもありません。トランプ大統領とプーチン大統領との間には安倍・トランプ以上の信頼関係があり、この壁を取り除けるチャンスはあります。
例えば、トランプ氏は在韓米軍に続いて在日米軍もいずれ引き揚げるつもりでいます。そうであれば米軍基地、軍事行動もいずれ問題がなくなります。問題はむしろ米軍が引き揚げた時の日本自身の防衛をどうするかです。
それと、歯舞・色丹の2島の場合、島が小さいために米軍基地を置く余地はありません。国後・択捉島の場合は十分な基地予定地はとれるので問題になりますが、歯舞・色丹のみならば、この問題は回避できる可能性があります。
プーチン大統領の御家事情
第2の壁は、プーチン大統領が了解しても、モスクワがこれを認めない可能性があることです。
北方領土問題解決には、相手がプーチン大統領の間に行うのが得策であるのは確かですが、最近のモスクワではそのプーチン大統領に対する反発も高まり、北方領土の返還に国民や議会が納得する可能性は極めて低いと考えられます。
しかも、歯舞・色丹にしても、日本人が居住しているわけではなく、むしろロシアがすでに実効支配しています。領土を日本に返還しても、ロシア人に出てゆけとは言えない状況になっています。
またプーチン大統領も、単なる日本びいきのお人よしではありません。KGB上がりの策士です。自分の立場を危うくしてまで日本のために領土返還するとも考えにくいところがあります。