去る10月15日、米国小売業の象徴だった「シアーズ」が破産。132年の歴史に幕を閉じました。その原因を探りながら、日本の小売業が向かうべき未来を考えます。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2018年10月24日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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一時代を築いた「シアーズ」が破産
去る10月15日、わが国の明治初期から132年の歴史があり、1980年代まで米国のシンボリックな小売業だった「シアーズ」が破産しました。支払い期限が来ていた1億3,400万ドル(1.5兆円)の決済の目途が立たなかったからです。
シアーズには、格別の想いがあります。小売業での今のトヨタであるかのように、世界ナンバーワンのシアーズを世界が称え、戦後から1970年代末までの約30年、わが国の小売業の到達モデルでもあったからです。
店舗が一番多かったダイエーを筆頭にして、イトーヨーカ堂・イオン・マイカル(旧ニチイ)・ユニー・長崎屋などの日本型GMS(第一次小売業近代化グループ)は、シアーズをモデルに誕生しています。日本型GMSとするのは、シアーズにはない食品と生鮮を扱ったからです。
7年連続の「経営赤字」
アニュアルリポートでは、シアーズの2017年の売上は167億ドル(1.87兆円)でピークの3分の1以下に減り、経営は3.8億ドル(418億円)の赤字です。総資産も、店舗の閉店と売却により、72億ドル(7920億円)に減っています。
その4年前の売上は361億ドル(4.0兆円)で、13億ドル(1430億円:売上比3.6%)の赤字でした。2011年から7年連続の赤字であり、閉店と資産処分、そしてコストカットを続けていたのです。
10年前から、投資家のウォーレン・バフェットからは「シアーズは倒産する」と言われていましたが、ゼロ金利による生命維持装置で約8年延命していました(※筆者注:株主資本が3500兆円と、日本の6倍も大きな米国では、銀行を経由せず、資本市場から調達する直接金融が多く株価の下落で潰れます)。
株価経営の恐ろしさ
2018年に、FRBの2度の利上げから、長期金利が3.2%台に上がると追加の借入ができなくなりました。資金が流出している赤字経営では、満期が来た社債の返済ができない。金利が上がると、金利を一層上げることになる社債の追加発行もできない。
高い株価に依存するM&Aで事業を拡大し、株価経営に近いイオンも類似します。小売事業の利益を上げ、株価を高く社債金利を低く維持しなければならないのが株価経営です。
新規発行の社債金利が上がり、買い手が減って社債の発行が止まると、過去の社債の償還が来て、短い期間で資金難に陥ります。社債での資金調達は、信用の判断でアナログ的な銀行借り入れより、はるかに怖い。株価資本の経営のソフトバンクも同じです。
資金調達を重視する株価経営では、財務担当がCEOになりやすい。しかし商品を売る事業の経営のCEOは、商品担当でなければならないと考えます。
シアーズの負債額は、109億ドル(1.2兆円)とも500億ドル(5.5兆円)とも言われています。おそらくデリバティブの簿外債務が混じっているので、公開されたB/Sだけでは、判断できません。