換金性のある資産は、652.7兆円のうち37%の242.9兆円しかない
以上の固定資産は、資産ではあります。しかしこれらをまとめた、
- 河川の治水(65.6兆円:国有財産の37%)
- 道路(65.2兆円:同37%)
- 省庁等の建物(3.1兆円)
- 橋やトンネルなどの工作物(3兆円)
は、民間に売って換金できるものではありません。
金銭である国債の負債に対応する資産とは言えない。土地は、明治の過去から、政府が管理してきたものです。省庁の建物も売れるものではない。
河川に加えた治水工事(65.6兆円:国有資産の37.%)や、道路(65.2兆円:同37%を買う民間会社はない。例えば利根川を買っても、事業用資産としては意味がありません。公共投資をした資産ではあっても売れないもの買われないものは、換金性の資産価値はありません。
民間会社が、誰も買わない土地をもっていても、バランスシートでの有効な資産ではないことと同じです。
河川と山林は政府の管理ですが、ほとんど換金性がない。わが国の国土で山林は2500万ヘクタールで67%(2/3)です。世界平均の山林率は30%ですから、日本は世界より山林面積の割合が2倍多い。
政府は公共であり、その点で特殊です。しかし会計のバランスシートで負債と対照する資産では、換金性があるものでないと有効ではないように思います。
以上の観点で、資産のうち、会計的に有効なものを抽出すると以下になるでしょう。
【換金性の観点からの、資産の内容検討】
・現金・預金:18.6兆円(現金と、日銀などへの預金)
・有価証券:129.0兆円(財務省が管理している外貨準備)→政府短期証券と相殺される
・貸付金:137.9兆円(自治体や政府系金融機関への貸付金)→資産として有効
・運用預託金:104.8兆円(公的年金の基金の運用をGPIFに預託)→年金基金と相殺
・出資金:66.3兆円 →換金性あり
・固定資産:177.7兆円(道路・河川・山林、公共の建物など)→換金性が薄い
・その他資産:20.1兆円 →換金性あり
これらのうち、換金性のある資産は、[現預金18.6兆円+貸付金137.9兆円+出資金66.3兆円、経過勘定のその他資産20.1兆円=242.9兆円]です。総資産とされている652.7兆円のうち37%です。
財務省が資産として示す652.7兆円のうち、有価証券129.0兆円は、政府短期証券と相殺されます。運用預託金104.8兆円は、国民のものである年金基金と相殺されます。
河川と道路が130.8兆円(74%)である固定資産の177.7兆円は、ほとんど換金性がありません。
政府は、河川の工事に大きなお金を使っています。計上された土木工事費は、50年の耐用年数として減価償却された後のものです。河川工事には、100兆円以上が使われているでしょう。
次は、負債を見ます。
政府の負債1143.1兆円は、すべて換金性のあるもの
【負債の内容】
・政府短期証券:101.8兆円(外貨準備を買うための短期国債)
・国債:855.8兆円(建設国債260兆円、赤字国債449兆円、年金特例公債5.2兆円、財投債104兆円、復興債9兆円、原子力支援の交付国債1.3兆円など)
・借入金:28.4兆円 (原子力賠償支援などの借入金)
・年金預かり金:112.2兆円(国民年金、厚生年金等の基金)
・その他負債:45.1兆円(未払い金11兆円、預託金7兆円、責任準備金9.4兆円、退職給与引当金9兆円、その他負債8兆円など)
以上の負債合計:1143.3兆円
政府の負債1143.1兆円(2013年3月期)は、全部が換金性のあるものです。この中から対応している資産と相殺できる、政府短期証券101.8兆円(外貨準備と相殺)、及び年金預かり金112.2兆円(運用預託金と相殺)を引くと、929.2兆円になります。
以上を勘案し、換金性の資産と負債により、正味の政府B/Sを作ると以下になります。
資産 | 負債 |
---|---|
現金・預金:18.6兆円 | 国債:855.8兆円 |
貸付金:137.9兆円 | 借入金:28.8兆円 |
出資金:66.3兆円 | その他負債:45.1兆円 |
その他資産:20.1兆円 | |
換金性資産合計:249.2兆円 | 負債合計:957.7兆円 |
債務超過:708.5兆円 |
多くの検討は、ここで終わっています。
必要なことは、
- 中央政府の税収の13年分もある債務超過の政府が、その後も新規の国債(利付き借用証)を、なぜ発行できているのか
- 10年後にしか返済されない国債が1%以下という低い金利で、金融機関に売れているのか
の検討でしょう。借り入れにおける金利の低さは、一般には、信用の高さを示します。
以上をどう判断したらいいのか、考えます。
債務超過の708.5兆円は、一般会計の税収(54.5兆円:2015年度)の13年分の債務超過です。税収は企業の粗利益に相当します。
1万分の1にすると、年間粗利益54.5億円の企業において、その13年分の資産(708.5億円)が不足していることになぞらえることができます。
民間企業なら、とうの昔に信用をなくし、支出に必要な借入ができずに破産しています。しかし実際には、政府は破産していません。
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