「株式投資で使えるMBAの知識」シリーズ、今回は経済学で勉強する「ゲーム理論」の考え方を使って、今のシャープの状況を分析します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
シャープ経営陣のお粗末すぎる交渉術と「最悪のシナリオ」
ゲーム理論とは
ゲーム理論とは、ミクロ経済学の一部を形成する理論で、1994/2005年の2回に亘ってノーベル経済学賞を受賞した研究としても有名です。
端的に言うと、相手の行動を読んで合理的に自らの戦略を策定しようとする学問です。代表的な例に「囚人のジレンマ」があります。犯罪者仲間の2人が逮捕され、司法取引で自白したら刑が軽くなると仮定します。どちらも自白しない方が犯罪がバレずに良い結果をもたらすはずなのですが、相手だけ自白すると自分だけ不利になるので、結局二人とも自白してしまうというものです。
ゲーム理論を掘り下げるとどうしても抽象的になってしまうので、この記事ではゲーム理論「的」な考え方を使ってシャープの現状を分析します。ゲーム理論について学びたい方は以下のサイトがとても良くまとまっているので、ぜひご覧ください。
※3日で学ぶ交渉術!ゲーム理論入門
シャープ経営陣のまずい交渉術
交渉相手が鴻海に絞られる前は産業革新機構も出資に名乗りを上げていました。その額3,000億円です。産業革新機構は、シャープを事実上解体してJDI(液晶)や東芝(白物家電)との統合を目論んでいました。
一方鴻海は、産業革新機構を3,000億円上回る6,000億円規模の出資を提案していました。銀行への支援要請はなく、経営陣も交代なしという破格の好条件だったと伝えられています。
鴻海案は(1)出資額が多い、(2)経営陣残留、(3)シャープの解体なしと、産業革新機構より明らかに有利なものでした。鴻海案を採らないとしたら、株主から訴えられる可能性がある上、自らも経営に残れるというわけですから、採用しないのは事実上不可能だったでしょう。
ただし、鴻海は以前も出資交渉で手のひらを返した「前科」があり、今回もその可能性を踏まえる必要がありました。
鴻海は、本音では少しでも出資金額を抑えたかったはずですが、産業革新機構に出資額で上回らなければ勝つ見込みはありません。何としても産業革新機構を蹴落とすことを考え、3,000億円も上回る金額を提示したのでしょう。一度交渉相手が絞られてしまえば、あとは交渉を優位に進められます。
出資条件の提示を受け、シャープは2月25日に鴻海への第三者割当増資を決議しましたが、これはシャープが一方的に行ったものであり、鴻海との契約はまだ発生していませんでした。デポジットの1,000億円も盛り込まれていましたが、契約自体が白紙のため効力を発揮していません。
シャープ経営陣は、産業革新機構が撤退する時点で、鴻海を何らかの法的拘束力で縛るべきでした。何の拘束力もなく産業革新機構が撤退した時点で、あとは鴻海のやりたい放題です。これではあまりにお粗末と言われても仕方がありません。
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