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「トランプの独断」は嘘? 日本では報道されないイラン情勢の真実と次なる標的=高島康司

経緯の確認

情勢が複雑になっているので、状況を理解するために、これまでの経緯を簡単に整理しよう。

昨年の12月27日、イラク北部キルクークで、イラク軍の基地のロケット弾による攻撃があり、民間の契約業者のアメリカ人1人が死亡し、アメリカとイラクの複数の軍人が負傷した。

12月29日、アメリカはこれの報復として、イラクとシリアでイランを後ろ盾として活動するシーア派組織、「カタイブ・ヒズボラ」の拠点5カ所を空爆した。25名程度の死者が出た。

12月31日、この報復に抗議し、イラクの首都バグダッドで米大使館の敷地内に群衆が乱入する事件が発生した。米大使館の警備員が催涙ガスや銃を使用し、抗議活動は直ちに沈静化したが、数十人は大使館周辺に設置したテントに立てこもった。

これに対してエスパー米国防長官は、約750名の米軍部隊を同地域に「直ちに展開する」との声明を出した。派遣される部隊は、即応部隊である第82空挺師団の一部であるという。

そして、2020年1月3日、イラン国外で特殊作戦に従事する「コッズ部隊」の司令官、ソレイマニ将軍が暗殺された。

ソレイマニ司令官は車列でバグダード国際空港そばを走行中に米軍の無人攻撃機の「MQ-9 リーパー」による攻撃を受け、「カタイブ・ヒズボラ」の最高指導者であり、シーア派武装民兵組織の「人民動員隊(PMF)」の副司令官でもあったアブー・マフディー・アル=ムハンディスを含む4人とともに死亡した。

ソレイマニ司令官は、シリアやイラクに展開する多くの親イラン系武装勢力を全面的に統括する「イラン革命防衛隊」、「コッズ軍」の司令官だ。少将である。イランでは「イランのチェ・ゲバラ」として尊敬され、人気が非常に高い。そのためソレイマニ司令官の死は、アメリカへの報復を誓う大きなうねりをイラン国内に作り出した。

ハメネイ師をはじめイランの最高指導部は、30カ所以上の米軍事施設に対して攻撃を実施すると宣言した。これに対してトランプ大統領は、アメリカはイランの文化施設を含めた52カ所を攻撃すると反応した。するとさらにイランは、300カ所を攻撃すると声明し、これから報復の連鎖が続くことを示唆した。

そして1月8日、イラク北西部にある2つの有志連合基地への「イラン革命防衛隊」による攻撃になった。これに対し、トランプ政権がどのように反応するのか関心が集まった。

また1月5日に招集されたイラク議会は、同国に駐留する米軍やその他の外国部隊の撤退を求める決議を可決した。トランプ政権は撤退はしないとしているが、これが実現した場合、アメリカは中東における重要な軍事拠点を失うことになる。

報道されていない事実、ソレイマニ司令官とは?

これが、日本や欧米の主要メディアで報道されている内容だ。しかし、報道されていない情報があまりに多いのも事実だ。

まずソレイマニ司令官殺害の理由だが、欧米や日本の報道では、ソレイマニ司令官がイラク国内の米軍基地や関連施設の一斉攻撃を計画していたからだとしている。その可能性は否定できないものの、それとは異なる情報も多い。

1月8日、イラクのマハディ首相は、1月3日の午前にバクダッドでソレイマニ司令官と会談する予定になっていたことを明かした。マハディ首相によると、イラクはトランプ政権の要請によって、イランとサウジアラビアの緊張緩和に向けた対話を仲介していたという。サウジアラビアからイランになんらかの働きかけがあり、ソレイマニ司令官はそれに対するイラン政府の返答をマハディ首相に伝えるために、バクダッドを訪問した。

ソレイマニ司令官はこのような外交的な役割を担っていたため、イラン政府が発行する外交官用のパスポートでイラクに入国した。アメリカがイランとサウジアラビアの緊張緩和を働きかけたにもかかわらず。

トランプはそれを知ってか知らずかこれを無視し、ソレイマニ司令官を殺害した。

アメリカのポンペオ国務長官はこれを完全否定したものの、マハディ首相が明かにしたこうした経緯は、イラン国民の怒りにさらに油を注ぐ結果になった。

それというのも、ソレイマニ司令官が外交官用のパスポートを携帯し、イラン政府の文書を携えていたとするなら、ソレイマニ司令官はイラン政府の正式な代表として活動していたことになる。

そうした人物を殺害したことは、国家としてのイランに対する最大限の屈辱であることになる。

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