値上げの限界
安全・安心を確保するために、客を半分以下に落とすとなれば、企業は損益分岐点売上を下げ、稼働率が低くても利益が出る体制をとる必要があります。
そのひとつは、安全というサービスを対価として値上げをする方法です。しかし、これもあまり上げてしまうと、より安全な自宅での「家飲み」「中食」にシフトさせる面があります。
実際、外出自粛・飲食店の営業休止の中で、酒屋の売上は増え、資源ごみの日には缶ビールの空き缶や酒瓶・ワインボトルの「資源ごみ出し」が目立って増えています。
これらをみると、安全対価の値上げにも限界がありそうです。
もうひとつは、客・売上の減少分に応じたコストカットです。材料費などの変動費は売上とともに減少しますが、問題は家賃・人件費などの固定費です。
オフィスや店舗の利益率が低下すれば、長期的には家賃の低下圧力になりますが、短期間に調整することは不可能です。
そこで、人件費を落とすしかありません。ロボット化、アルバイトの活用、家族労働に頼るしかありませんが、これにも限度があります。
スペースの確保
次の問題はスペースです。都心の繁華街では広いスペースの確保はコスト的にも困難で、狭いところで客が肩寄せ合って飲食している炉端焼きも見られます。
しかし、ソーシャルディスタンシングを維持するとなれば、この営業法はできません。ライブハウスやコンサートホールも客席を減らすしかありません。
これへの対応は、2つ考えられます。
ひとつは、顧客の自宅など、既存の店舗やホールに代わるスペースを見つけ、利用することです。飲食店であれば、自分の店以外に「仮想店舗」を見つけること。つまり、客の飲食する場所に出張して料理を作るか、出前、テイクアウトで、客の居場所を臨時のスペースとして活用することです。その際、出張、出前ではそのための人員が必要になります。
もうひとつは、SNSの活用です。コンサートホールやライブハウスで生の演奏を楽しみたい気持ちはわかりますが、演奏家も客も2mの間隔を確保して演奏したり聴いたりすることは困難です。
クラシック音楽の場合、室内楽やハイドンなど小編成のオーケストラ曲の演奏は、椅子の間隔を空けられますが、マーラーやR.シュトラウスの大規模編成の曲は、演奏家の感染リスクを考えると演奏できません。
編成を小さくして演奏できたとしても、観客の感染リスクがあります。プロ野球同様に1列おきに座るか、左右を空けると、客数が減り、チケット収入が減ります。
そこで利用されたのがSNSです。
先日、ある演奏家が使い手のいなくなったホールを安く借り、そこで演奏した模様をネット配信しました。通常1万円する料金に対して、ネットで有料配信し、ライブ分は1,000円を課金したところ、ある程度の客を得たと言います。
聴衆が集まって「密」にならないようにするには、各家庭でソファーにゆったり腰かけて演奏を聴くスタイルにすれば、家族だけのコンサートが世界中で同時配信できます。ライブでなくてもよければ、より安いコストでいつでも聴くことができます。
集客が頼りの野球場やコンサートホールの経営がそれだけ厳しくなりますが……。