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中国経済「沈没」を示す悲惨なデータ。2つの構造的危機とトランプ高関税が致命傷に=勝又壽良

中国経済は、これまで輸出に依存して内需の停滞を補ってきた。しかし米国の高関税という強烈な壁に直面し、深刻な危機が表面化しつつある。小売売上高の伸び鈍化や新規融資の減少といったデータは、経済の「底冷え」を示している。米国市場を失った中国企業は、価格競争と賃金引き下げに追い込まれ、国民生活にも影響が及んでいる。習近平政権の政策ミスと社会主義体制の硬直性が重なり、経済と政治は共に大きな転換点を迎えている。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

中国経済を襲う輸出戦略の「副作用」

中国経済は、これまで国内市場の沈滞を輸出でカバーすべく全力を上げてきた。この行き過ぎた輸出戦略が今、逆効果となっている。

米国トランプ関税が、対米輸出に大きな壁になっているからだ。米国は、世界最大の市場である。1人当たり平均名目GDPが、8万ドルを上回るという桁違いの規模だ。中国の1人当たり平均名目GDPの6倍にも達している。この米国が、対中関税30%を課した影響は、月を追うごとに現れている。中国では、深く静かに経済危機が潜行していることに気づかねばならない。

具体的には、小売売上高の伸び率鈍化と金融面に現れている。小売売上高は、季節要因をならした前月比で0.14%減。6月に続く2ヶ月連続のマイナスとなった。7月の銀行の新規貸出高は20年ぶりにマイナスへ落ち込んだ。

この2つの手近なデータをみるだけで、中国経済に容易ならざる事態が起こっていると言うほかない。

中国は、米国という最大の「顧客」に対して、安全保障上で競争を挑むという最悪の選択をしている。「中華再興」は、多分に米国覇権へ対抗する意味を持っているのだ。もっと平易に言えば、米国の覇権を奪うと宣言しているにも等しいことである。こういう「無礼」な振る舞いをする中国に対して、米国が感情論から言っても拒否反応を示すことはやむを得ないであろう。

どこの国でも、安全保障は最大の拠り所である。それを脅かすような国に対しては、地政学的に掣肘を加えることは当然であろう。それを咎め立てすることはできない。中国は、そういう絶対に行なってはならない「タブー」を米国へ向けたのだ。習近平国家主席の政策ミスが、起こした問題である。

中国の1人当たり平均名目GDPは現在、1万3,000ドル台である。米国とは6倍もの開きがある。そういう格差の存在を無視して、「世界二大大国」の夢に酔った行動が今、中国を逆襲しているのだ。

米国市場を失う大きな打撃

中国経済は、これまで対米輸出で潤ってきた。輸出ロットは大きく、高級品が大量に捌けたのだ。

それだけに、今回のように対米輸出に高い関税で壁がつくられることで、中国経済が死活的な影響を受けることになった。中国は、レアアース輸出の規制で一矢報いているが、それ以上に踏み込めないもどかしさをみせている。米国市場を「失う」恐怖感があるからだ。それは、次のデータをみれば理解できるであろう。

中国の対米輸出変化率(前年同月比)は最近、次のようになっている。

4月:21.0%減
5月:34.5%減
6月:16.1%減
7月:22.0%減
(出所:中国税関総署)

この大幅な減少について、これまで中国の対米輸出は減っても迂回輸出によって、全体の輸出はプラスを維持しているものと解釈されてきた。米国が、中国の迂回輸出に神経過敏になっていることを、その証拠とみてきたのである。

だが、各国とも米国との関税交渉過程で、中国の迂回輸出に協力しないという「一札」を取られているのだ。これを、条件に関税率を引き下げられている。

こういう個別事情をみると、中国の対米迂回輸出は不可能になっている。そこで、中国企業は米国以外の市場を開拓しなければならなくなった。注意すべきは、冒頭に指摘したように、米国市場は質と量の二面で世界最高の存在であることだ。中国企業は、米国市場を失うことで劣位の市場を探さなければならない羽目になっている。

中国企業は、輸出の量も価格も低位の市場へ殺到していることから、輸出採算は悪化の一途である。

Next: 中国経済は悪化の一途。その衰退ぶりは「金融データ」を見れば明白?

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