広告は必要?邪魔? アップルの立場は
アップルは、自社のブラウザー「Safari」にITP(Intelligent Tracking Prevention)という機能を搭載しています。原理は簡単で、広告プラットフォームなどのクッキーを消去する仕組みです。広告プラットフォームは、クッキーが保存されていなければ、行動を追跡することができません。さらに、ポリシー変更などで、広告業者がユーザーの隙をついて収集したプライバシー情報に基づいた広告配信ができないようにしています。
この問題は簡単ではありません。広告業者には広告業者の言い分があります。プライバシー情報を収集しているといっても、適切な匿名化処理を行なっている。広告配信の精度があがれば、その人にとって必要な広告だけが表示される世界が実現できる。そうなれば、広告はじゃまなノイズではなく、有用な情報のひとつになる。メディアは広告収入で運営ができるようになり、多くのサービスが無料もしくは無料に近い低価格で利用できるようになると主張します。
アップルは、プライバシーのページでこう説明しています。「ウェブサイトの中には、サイトを閲覧するあなたの行動を何百ものデータ収集会社に監視させ、あなたのプロファイルを作成して広告を表示するものがあります。Safariのインテリジェント・トラッキング防止機能はデバイス上の機械学習を使って、これらの追跡型広告をブロックできるようにします」。
アップルは、このような広告業者のプライバシー軽視のやり方から、自社のユーザーを守ろうとしています。
米国と日本の広告市場では、アップル対広告関連企業の静かな戦いが続いています。広告関連企業とは、グーグルとフェイスブック、アマゾンです。つまり、GAFAは、AvsGAFという図式になりつつあります。
プライバシーに無頓着な中国、広告はどう進化?
中国では、広告トラッキングの問題はあまり話題になりません。それは中国人がプライバシーに無頓着ということではありません。中国では、ブラウザーを使ってさまざまなサイトを閲覧するというスタイルが次第に少なくなっていることが大きな要因です。
中国のアプリMAU(月間アクティブユーザー数)を見ると、ウェブブラウザーは「QQブラウザー」(テンセント)、「UCブラウザー」(アリババ)の2つしかランキングされず、しかも決して上位とはいえません。多くの人は「WeChat」「タオバオ」「アリペイ」「Tik Tok」「百度」「ウェイボー」などのアプリを入れれば用が足りてしまいます。「今日頭条」などのニュースアプリを入れている人も多いですが、WeChatでニュースアカウントをフォローしてニュースを読む人も入れます。また、生活サービス系のサイトは、ブラウザーからアクセスをしなくても、WeChatやアリペイの中のミニプログラムでアクセスができ、その方が早く、ログインの手間もなく、安全です。
ウェブを訪問する時は、多くの人が検索をして目的のサイトを探し出しアクセスをします。この用途には「百度」アプリが十分に用をなしてくれます。中国では標準の検索エンジンである百度で検索し、リンクをタップすると、百度アプリ内のブラウザーでサイトを表示してくれます。
ブラウザーというのは、もはやメインのアプリではなく、数ある応用アプリのうちのひとつになっています。
もうひとつの特徴が、アリババ、テンセント、百度、バイトダンスの寡占化が進んでいることです。テンセントはWeChatを筆頭に、QQ、テンセントビデオ、テンセントビデオなどの自社アプリ、さらにはピンドードー、快手などの系列企業のアプリがランキングに入っています。当然ながら、テンセントの広告部門が、さまざまな広告主からの依頼を受けて、広告を配信しています。しかし、アプリの寡占化が進んでいるために、「アプリ越えトラッキング」があっても、同じ企業のアプリ内なので問題になりません。
米国や欧州、日本のネット空間は、小さな王国が無数に存在する戦国時代です。GAFAという4つの帝国がこのような小国を取り込もうとしているところです。この支配が中国では一歩先に進み、BATという3つの帝国がネット空間を支配してしまっているのです。そこに、バイトダンスや美団といった次の帝国を狙う新興国が登場してきている状況です。