広告主を騙す中国のネット広告詐欺
中国のネット広告業界では、広告トラッキングの問題がない代わりに、大きな問題になっているのがネット広告詐欺です。ネット広告詐欺と言っても、消費者を騙すのではありません。広告主を騙し、出稿料を騙し取るのです。広告主から見ると、広告費をかけて宣伝をしても広告効果が上がらないことになります。ネット広告業の成長にも大きな足枷となっています。
今回は、ネット広告詐欺がどのように行われているのかをご紹介し、そして、従来のネット広告を変え、新しい広告モデルを構築しようとしているビリビリとTik Tokの事例をご紹介します。
2019年に、大掛かりな広告詐欺が中国で起こりました。テンセントが3人の犯人にみごとに騙されたというものです。
3人は、ラー油などで有名な「老干媽」(ラオガンマー)の社員だと偽り、テンセントに広告プロモーションの業務を持ちかけました。テンセントが開発したスマホゲーム「QQ飛車」の中で、老干媽のプロモーションをしたいというのです。3人は老干媽の印鑑まで偽造をして、正式な契約書を結びました。テンセントでは、対応チームを作り、ゲームの中で老干媽の商品やロゴを表示するタイアップキャンペーンを行いました。
ところが、その広告費用である1,600万元(約2.6億円)が支払われません。老干媽に問い合わせをすると、そんなキャンペーンは知らないと無視されます。そこで、テンセントは2020年6月に、裁判所に訴え、老干媽の資産の差し押さえを行いました。しかし、老干媽とテンセントが話し合いをしてみると、問題の3人は老干媽の社員でもなんでもなく、テンセントは広告詐欺にあったということが発覚をしました。7月には貴陽公安が、3人を逮捕しました。
しかし、3人の犯人の目的はなんだったのでしょうか。3人は広告費用を懐に入れたわけではありません。3人の目的は、QQ飛車のスポンサーになることだったのです。スポンサー企業の担当者は、ゲーム内でのプロモーションが計画通りに行われていることを確認する必要があります。そのため、スポンサー用に特別なゲームアカウントが発行されます。このアカウントでは、ゲームを迅速に進められるように、レアなカードやアイテムが取り放題になります。
3人の目的は、このスポンサーアカウントでレアアイテムを大量に取得をして、ネットで転売をして利益をあげることでした。
テンセントは老干媽に対して正式に謝罪をし、この事件は終わりました。テンセントは、この件に関して、自虐パロディ動画をビリビリの公式アカウントで公開しました。
アイドル番組の映像に吹き替えをして、自虐的な言い訳をネタにしたのです。その中の「偽物のラー油をつかまされた人は8元損をしたかもしれないけど、私は1,600万元損をした」という台詞は、当時、ネットのちょっとした流行語になりました。また、WeChatの公式アカウントでは、テンセントの社員食堂の写真を公開しました。テーブルの上には、白いご飯に老干媽の「食べるラー油」をかけただけのものが並べられ、「今日のご飯はこれだけ」というキャプションがつけられたものです。
ネット民は大喜びで、「今年最大の笑える話」として盛り上がりましたが、ネット広告業界が詐欺師たちの格好のターゲットになっていることが明らかになった事件です。
2020年ネット広告詐欺の被害額は2,800億円
テンセントのセキュリティチーム「テンセント天御」の調査によると、2020年のネット広告詐欺による損失は180億元(約2,800億円)にも達していると推計しています。ネット広告の市場全体が4,000億元程度なので、全体売上の4.5%が詐欺師の手に渡っていることになります。
これでもかなり減った方だと言います。2020年はコロナ禍があったために、広告出稿量そのものが減り、それに比例して詐欺師の活動も抑えられました。また、2020年は、中国政府が「浄網2020」として、ネットを健全化するさまざまな活動を行いました。
しかし、テンセント天御では、年間1兆回にも及ぶ広告アクセスを監視、分析して、そのアクセスが詐欺によるものであるかどうかを計測しています。それによると、5月では33%、12月では19%が、広告詐欺の可能性があるアクセスであるとしています。
・中国ネット広告は新時代へ「bilibili(ビリビリ)」の対策
・広告効果が異常に高い「TikTok(ティックトック)」
・消費者に嫌われない広告手法とは?
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『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2021年1月25日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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