世の中が混乱したとき、実物資産も混乱に沈む
実物資産というのは、どうしても流動性の問題にぶち当たる。
今日買って明日売るような機動性の優れた売買ができない。実物資産の市場は非常に小さい。そのため、思い立っても、いつでもすぐに買い手が見つかるとは限らない。
その実物資産を買ったところに持ち込んでも、売る時は態度がまったく違うはずだ。
買う時は恭しく迎え入れられたはずなのに、それを売る時は連絡の返答すらもしてくれないような業者もいる。信じられないのであれば、試しにその実物資産を売ってくれた業者に問い合わせてみればいい。冷たい対応をされるはずだ。
また、実物資産というのはそれをどれだけ長く持っていても、株式のように配当はつかない。不動産のように家賃収入が入ってくることもない。
つまり、どれだけ長く持っていても、それは売らない限り、まったく現金が戻らない。売らないと何も生み出さない。
株式が毎年3%の配当を出して、さらに株式の値上げも期待できるとすれば、それこそ現金が戻って来たうえに含み益も得られるわけで、インカムゲイン(配当金)とキャピタルゲイン(株価上昇)の2重で資産が増える。
実物資産はインカムゲイン(配当金)に当たる部分がないので、株式よりも有利であるとは言えない。
このように考えると、実物資産を崇拝するのは意外に危険が伴うことが分かるはずだ。世の中が混乱したとき、実物資産を持つのが最大の利益であると考える人もいるが、それは大間違いである。
実物資産もまた、大混乱の中で売り手が見つからなかったり、買い叩かれたりする資産なのだ。つまり、株式・国債のような金融資産や、不動産ような資産と何ら変わらない。
戦争の大混乱でも株式市場は動き続ける
株式市場は、世の中が大混乱したときは脆弱なシステムになると考えている人も多い。
しかし、戦争の大混乱の中でも株式市場が開いていて、商取引が行われていた歴史を見ても分かる通り、私たちが思うより意外に堅牢である。
それもそうだ。人類は「株式資本主義」を作り上げたのだ。現代文明の深いところに株式資本主義はすでに「コア・システム」として組み込まれている。
信じられないかもしれないが、2010年代の「中東の春」で大混乱に陥ったアラブ諸国でも、株式市場は生き続けていた。シリアでもダマスカス証券取引所(DSE)が開いていたし、イラクでもイラク証券取引所(ISX)が開いていた。
2010年代の半ばあたりからは超暴力武装組織「ISIS」の暴力が地域を席巻し、街は爆撃で廃墟と化し、人々が次々と傷ついて死んでいた。
そんな最中、株式市場だけは淡々と動いていたのである。