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バイデン政権下で「失業していたほうが儲かる」異常事態。日本を巻き込み何が起こるか?=高島康司

仮想通貨への投資の過熱

このようにインフレが昂進する状況は、通貨価値の下落を意味する。そのようなとき投資家は、通貨価値の下落の影響を受けない現物へと投資をシフトする。それはゴールドやシルバーなどの希少金属であると同時に、いまは暗号資産へも投資がシフトしている。ビットコインを中心とした仮想通貨の相場が急騰しているが、それはこの動きの反映である。

4月29日の米大手経済紙、「ウォールストリート・ジャーナル」の記事によると、仮想通貨の市場は2兆ドル(約210兆円)に達したという。いま世界で流通しているドルの総価値は2兆2,000万ドルなので、仮想通貨の市場規模がこれに匹敵したことを示している。

アメリカのインフレはこれからも続く可能性が極めて高い。長期化する懸念も大きい。ということでは、各国政府が強い規制でも導入しない限り、仮想通貨の相場は引き続き上昇すると見て間違いないだろうと思う。

さらにこのような仮想通貨の動きが背景になり、ブロックチェーンを基礎にした「分散型金融(DeFi)」という分野が急速に注目を集めている。これは、仮想通貨の先物、デリバティブ、スワップ、ローン、預金などの金融サービスを提供する分野だ。この「分散型金融(DeFi)」が急速に台頭し、既存の金融産業の再編成を主導するかもしれない。

バイデン政権の政策転換は不可能

では、1970年代に多くの国々は経験したスタグフレーションの再燃が懸念されるいま、高インフレの基本的な原因となっている直接給付を含む巨額の経済対策を、バイデン政権は改めることはできないのだろうか?

FRBが金利を引き上げると同時に、バイデン政権が経済対策を縮小すれば、インフレの昂進はある程度緩和する可能性が出てくる。これは実施できないのだろうか?

結論からいえば、これはかなり難しいといわねばならない。最近は日本の主要メディアで報道されることはほとんどなくなったが、いまでも米国内のトランプ支持派は強力に運動を展開している。5月10日、南部アリゾナ州で最大の人口を抱えるマリコパ郡で、2020年の大統領選挙で不正があったとして、210万票の手作業による再集計が行われることになった。アリゾナ州上院の共和党は、2020年大統領選挙の不正疑惑をいまも追求しており、トランプの勝利を確信しているようなのだ。

もちろん再集計の結果、マリコパ郡でたとえトランプの逆転勝利が確定したとしても、これでバイデン政権の正当性が揺らぎ、トランプが大統領として就任するなどということにはならない。

だが、このアリゾナ州の票再集計の動きは、共和党が州議会の多数派を占める他の多くの州に拡大する懸念がある。昨年の大統領選挙の結果が覆るということにはならないにしても、トランプを正当な勝利者として確信しているトランプ支持派の運動を活性化させることは間違いないだろう。

いまトランプ支持派は、2022年11月の中間選挙を次の目標に見据えて活動している。これで上院の三分の一と下院の全議席が改選される。現在は上下両院とも民主党が過半数を占めているが、中間選挙で共和党が過半数を取ると、バイデン政権は実質的に機能しなくなる。さらに中間選挙で共和党が勝利すると、2024年の大統領選挙でトランプが返り咲く可能性が極めて高くなる。

もちろんこれは、民主党のバイデン政権にとってはなんとしてでも阻止しなければならない事態だ。2022年の中間選挙は、どんな手を尽くしてでも勝たねばならない。

現在、バイデン政権が実施している巨額の経済対策は、新型コロナウイルスのパンデミックで落込んだ米経済を回復させるという目標だけを追求しているわけではない。いまのアメリカは依然として分断されたままなのだ。

いまだに根強いトランプの支持者を引き込み、分断を修復し、そして民主党が政権の座にとどまるためには、トランプの支持派にも、「バイデンもよくやっている。バイデンでもいいのでは」と思わせるような政策を実現しなければならない。

周知のようにトランプの中心的な支持層は、没落した労働者などの低所得者層である。トランプはいわば彼らのワシントンのエリートに対する怨念に火をつけて当選した大統領だった。彼らは、新型コロナウイルスのパンデミックで最大の被害を受けた層でもある。バイデン政権と民主党がアメリカの分断を修復し、政権を維持したいのだれば、なによりもまずこの層に手厚い支援を提供し、民主党に引き込まなければならないはずだ。

いまバイデン政権が実施し、インフレの原因にもなっている史上まれに見る巨額の経済対策には、トランプの中核的な支持層を抱き込む狙いが間違いなくある。

そうして2022年の中間選挙に勝利するつもりだ。ということを考えると、インフレ懸念が強まり、将来のスタグフレーションの可能性が高まったとしても、いまのバラマキのような政策を止めることはまずできない。とりあえず、危機が本格的になるまでは、このまま突っ走るしかないだろう。これが現状だ。

Next: 消えないインフレ懸念。米国社会の歪みは日本に波及する

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