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五輪中止「損失1.8兆円」報道で鮮明になる全国紙の“五輪への忖度”。立ち位置が微妙な朝日は「二枚舌」作戦に移行か

開会式まで2か月を切ったにも関わらず、いまだに開催の是非を巡っての論議が続く東京五輪だが、もしも開催中止となった場合、1兆8,000億円もの経済損失を被るという試算が出たと、ロイターなど様々なメディアが報じ、大きな反響を呼んでいる。

日本有数のシンクタンク、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストである木内登英氏の試算によると、海外からの観客は受け入れず、国内の観客は無制限に受け入れるケースの場合、組織委員会が昨年公表した運営費用などの予算を基に算出される経済効果は1兆8,108億円とのこと。もしも開催が中止となれば、この経済効果がパーになることから……というのが、この経済損失額の根拠のようだ。

いっぽうで、国内からの観客を半分しか受け入れない場合は、チケット販売や消費支出などが合計734億円減少、また完全無観客の場合は1,468億円の減少となる模様と、ロイターなどは伝えている。

「見出しと中身が違う」ネット上であがる怒りの声

新型コロナの感染拡大がまったく収束せず、各社の世論調査では過半数が「中止論」に傾く結果となっている昨今。そんななか、何が何でも開催へと突き進む気でマンマンの政府や東京都などにとっては、今回の試算は五輪強行への良い材料となりそう……と思いきや、実際のところ野村総研による分析は、そういった趣旨のものではないようだ。

今回の報道の元ネタとなったレポートを読んでみると、確かに東京五輪中止による経済損失は1兆8,000億円とあるが、その後に書かれている緊急事態宣言による経済損失を見てみると、1回目が約6.4兆円、2回目は約6.3兆円、そして現在の3回目は5月末までの実施なら約1.9兆円で、宣言延長が決まればそこに約3兆円加算とのこと。いずれも木内氏による推定値ということだが、とにかく五輪中止の数倍という経済損失となっているという。

さらにレポートには「仮に感染が拡大して緊急事態宣言の再発令を余儀なくされる場合には、その経済損失の方が大きくなる」「(五輪開催や中止の判断は)その経済的な損失という観点ではなく、感染リスクへの影響という観点に基づいて慎重に決定されるべき」とも記されており、「五輪を止めたら大損!」というよりも、むしろ「開催は慎重に考えた方が…」といったノリなのだ。

にもかかわらず、冒頭にあげたロイターの配信記事をはじめ、多くの新聞社などの記事が、五輪中止による経済損失のみに触れた見出しを掲げていることに対し、ネット上からは「見出しと中身が違う」と怒りの声が多くあがる事態となっている。

「反政権」か「五輪への忖度」か…苦悩伝わる朝日新聞

全国紙をはじめとした大手メディアが、今回のように五輪開催に関してマイナスイメージとなるような記事を書けないのは、実はそれらのほとんどが東京五輪のスポンサーになっているから、というのは最近よく取沙汰されている話。新聞社に限っても朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・日本経済新聞の4紙は、4種類ある東京大会のスポンサー契約のうち、3番目にランクされるオフィシャルパートナーに名を連ね、さらに産経新聞と北海道新聞も、ランク的には4番目にあたるオフィシャルサポーターの契約を結んでいるという。

いっぽうで、東京五輪とは何らしがらみがない模様の中日新聞社が発行するブロック紙である、東京新聞や中日新聞といったあたりは、今回の件に関しても『五輪中止で「損失1.8兆円」試算にネットは「開催の場合の損失は?」「やったとして経済効果は」』(中日新聞)と、五輪強行に懐疑的なニュアンスを含ませる記事をあげている。そもそも中日新聞では、すでに5月8日の段階で『東京五輪、もはや「詰んだ」状況ではないのか』なる記事をあげており、それらと比べると他の各紙による五輪への「忖度」あるいは「遠慮」ぶりが鮮明に浮かび上がる。

しかし、そんな大手メディアによる五輪への忖度も、国民の間で日に日に高まる中止機運を受けて、変化せざる得ない状況のようだ。その先鞭を付ける格好となったのは朝日新聞で、26日の社説において「中止の決断を首相に求める」と主張。このことが「東京五輪のメディアスポンサーが日本の首相に大会中止を呼びかけ」などと、世界各国のメディアがこぞって報じる展開となった。この朝日新聞の論調変化に関しては、様々な層から多くの支持の声があがっている。

ただ、今回の「損失1.8兆円」ネタに関しては、『五輪中止、経済損失は1.8兆円 野村総研が試算』との記事で、本文内では緊急事態宣言による経済損失の件には触れているものの、見出しではそれに触れずじまい。五輪開催の是非が与野党間での争いのタネとなるなか、反政権・野党寄りのスタンスと五輪オフィシャルパートナーという立場との狭間で、対応に相当苦慮している様子がアリアリと伝わって来る朝日新聞。批判は相当集めそうだが、当分はこのような「ダブスタ」になるのは仕方がない、といったところだろうか。

Next: 「五輪反対ならスポンサー契約打ち切りが筋では?」

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