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デジタル人民元はビットコインを駆逐しない。習近平が導入を急ぐ本当の理由=高島康司

的外れな懸念

実はいま、「中国人民銀行」の幹部の発言など、こうした懸念を打ち消す内容の報道が増えている。

まずビットコインを中心とした既存の仮想通貨の使用が全面的に禁止される可能性だが、それはほとんどないという見解が多い。それというのも、ビットコインをはじめとした既存の仮想通貨は、相場の投機的な変動が激しく価値の安定性がないので、一般的は決済手段としては使えない。

その点では、流通・決済手段としての「デジタル人民元」の拡大を阻害する要因にはならないのだ。

反対に「中国人民銀行」は、ビットコインなどを決済機能を持つ通貨としてではなく、資産を保持する手段である暗号資産として、その存在を認める方向だ。

そのような動きから見ると、ビットコインなどの既存の仮想通貨が全面的に禁止になる可能性は低いと見られている。

また、「デジタル人民元」のドル覇権体制への挑戦という目的だが、これにも否定的な見解の記事が多い。

これまで人民元の使用を国際的に拡大し、これを国際決済手段として発展させる機会は中国にはあったが、中国はこれに対して消極的な姿勢を崩さなかった。いまでも国際決済においては、「人民元」が占める割合は2%程度と低い。円とユーロの割合のほうがずっと高いのが現状だ。

中国は、「人民元」の国際決済での使用を積極的にプロモートする意志はあまりないようだ。これは「デジタル人民元」についても当てはまる。多くの記事で「中国人民銀行」の幹部は、中国には「デジタル人民元」を国際決済通貨にする野心はないと何度も発言している。

こうした状況から見て、いまのところ中国にはビットコインをはじめとした仮想通貨の使用を禁止したり、また「デジタル人民元」を国際決済通貨にする意志はないように思われる。

その意味では、2022年に「デジタル人民元」の導入実験が中国全土で実施され、本格的な導入の準備が整うが、仮想通貨の暴落などもさほど心配しなくてもよいのかもしれない。

中国の本当の目的

では、ドル覇権の挑戦ではないとしたら、中国が「デジタル人民元」を推進する本当の目的はなんだろうか?

この分野に詳しいシンクタンク系の記事を見ると、その本当の目的は国内経済の管理を強化することだという。

それには次の2つの目的がある。

<目的その1:経済の循環を管理し、共産党の権力集中を維持>

いま中国共産党にとって大きな脅威となっているのが、急速な発展で拡大した経済規模である。

人口が14億で世界第2位のGDPの規模になると、中国各地には行政の管理が十分に行き届かないさまざまな経済分野が出現する。中国のノンバンクによる金融商品の拡大で急成長した「陰の銀行システム」などはその典型だが、経済発展に伴いさまざまな産業分野で管理ができない分野が多数出現する可能性が出てくる。

それは、麻薬、アルコール、ギャンブルなどの違法な分野のみならず、正式な認可を受けていないあらゆる分野の企業活動も含まれる。

こうした、いわば非公式な経済領域が拡大すると、この豊富な資金源を背景にして、地方政府や中央の共産党に影響力を行使できる力を持つ集団も出現する。そうした権力集団は、共産党の一元的支配の構造を侵食し、共産党を弱める可能性がある。

「デジタル人民元」が一般的な流通・決済手段になると、すべての取引とトランスアクションは政府がモニターし管理することができる。すると政府は、経済の陰の部分の活動を事前に察知し、規制することが容易になる。これにより、共産党の一党独裁が一層強化される。

Next: 仮想通貨を潰す気はない?狙いは共産党支配の権力基盤を強化すること

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