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『イカゲーム』世界的ヒットの裏に韓国若者のSOS。就職できず将来に絶望、借金で投資する「一か八か」のリアル=勝又壽良

育たぬ転職市場。希望就職先は公務員

今年、積極的に求職活動をしている大学生と卒業生は、入社願書を平均6.2回出したという。書類選考に合格した回数は平均1.6回だった。就職を希望する企業については、公企業(18.3%)と大企業(17.9%)・公務員(17.3%)の割合が同程度である。

就職希望先は、公企業・公務員、それに大企業である。すべて、「寄らば大樹の蔭」である。ベンチャー企業や中小企業ではない。ここに、韓国社会の特異性を見る思いがする。朝鮮李朝時代からヤンバン(両班)支配の気風が、今なお生き続けていることだ。最初から、「勝ち馬」に乗るという人生の選択をしている。

この思惑が外れた場合、韓国社会では「乗った馬」から自分で降りて、自営業を選んで「一国一城の主」の道を進む。

韓国の自営業者数が、GDP世界10位前後の国にしては飛び抜けて高い(24.6%=2019年)理由は、産業構造の近代化が遅れているほかに、この「気位の高さ」が影響していると見られる。自営業は、好景気の時にその波に乗って行ける。だが、景気に逆風の吹いたときは、最初にそのつむじ風に吹き飛ばされる、極めて不安定な経営環境にあるのだ。

職場で、嫌なことがあっても我慢する。韓国社会では、それが困難ゆえにすぐに退職して自営業の道へ進んでいる裏に、もうひとつ「転職市場」が育っていないという事情がある。終身雇用制と年功序列賃金制が、今なお牢固として守られているからだ。大企業労組が、この2原則を絶対に譲らない結果である。

転職市場さえ完備していれば、自営業を選ばずとも転職によって働く環境を一新できるのだ。嫌いな上司の顔を見なく済む。

韓国の「イカゲーム」の裏には、こういう韓国社会の柔軟性欠如が災いしている。

4分の1は自営業者の怪

ここでもう一度、韓国の自営業者比率が国際的に見てどのレベルにあるかを確認しておきたい。

自営業者比率は、就業者数に占める自営業の比率である。OECDで、韓国よりも高い比率の国は、全て韓国のGDP規模を下回る国ばかりである。ブラジル・メキシコ・ギリシャ・トルコ・コスタリカである。

韓国は、「先進国入りした」と胸を張る。就業構造から見ると、発展途上国の一角に位置していることは明らかだ。日本の自営業者比率は9.98%、ドイツ9.61%、米国6.32%(いずれも2020年)だ。データは、OECDである。

誤解のないように指摘したい。自営業がダメで、ビジネスマンが上という単純な話ではない。景気変動時の雇用は小舟よりも、大きな舟に乗っていた方がより安全という意味である。その点で、米国の6%強は韓国の25%弱より、はるかに安定しているであろう。もっとも、企業でも解雇がある。その場合、退職金もあれば再雇用の際に、優先的に雇用されるという条件もつく。雇用の安定面では、自営業よりも有利だろう。

韓国が、終身雇用制と年功序列賃金制に縛られて、転職市場も育たない現実を脱するには、広い視野から雇用を考えることである。韓国の労組は、自分たちの利益だけを優先して、国民全体の利益を無視している。

文政権は、労組の支持を繋ぎとめるべく、この「業」を増幅しているから、ますます救いがなくなる。韓国の経済も社会も不安定化する理由なのだ。

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