広島県が女性労働者らを支援する意図で制作したガイドブックに関して、一部の表現が不適切ではと、ネット上で大炎上する事態となっている。
問題視されているのは『働く女性応援よくばりハンドブック』という冊子。女性労働者がワークライフバランスを実現するための心構えといったものから、実際に行政が実施している妊娠・出産に関する各種支援制度の紹介などが、全50ページにまとめられている。
報道によると、この冊子が最初に発行されたのは2016年で、20年に改訂されたとのこと。広島県の公式ツイッターが今年11月下旬に、同冊子を無料配布しているとツイートしたところ、女性のワークライフバランス実現を“よくばり”と表現するのは適切なのか、という意見をきっかけに批判の声が広がっているというのだ。
タイトルだけでなく内容にも批判の声が
今回取沙汰されている“よくばり”というワードだが、もともと広島県におけるワークライフバランス実現に向けた活動の界隈では、かなり多用されていた文言のようである。
現に広島県のサイトにて2016年9月20日に公開された「欲張りなライフスタイルの実現」というページには「仕事でチャレンジ!暮らしをエンジョイ!活気あふれる広島県 ~仕事も暮らしも。欲張りなライフスタイルの実現~」というスローガンが。その内容は、男女を問わず仕事にも暮らしにも希望を持てる「欲張りなライフスタイル」の実現を目指すといった趣旨で、さらに『ここでは,「欲張り」という言葉をあえて肯定的に使い,』といった記述もある。
また同ページのリンク先には、県内にお住いの方々にワークライフバランス実現の秘訣を聞く「応援します!よくばりさん」というインタビュー記事が多数掲載されているほか、地元テレビ局で流れている県の広報番組でも「欲張りなライフスタイル」というテーマの企画が過去に放映されたりと、広島県側としてはとにかく“よくばり”あるいは“欲張り”というフレーズがお気に入りだったようである。
いっぽう、今回問題視されている『働く女性応援よくばりハンドブック』を広島県が作ったのも、上記と同じく2016年ということで、その当時から県の担当部署内で多用されていたであろう“よくばり”という表現を、恐らく何の考えも無しに踏襲したものとみられる。ただ、その無神経さが「女性によるワークライフバランス実現はよくばり」と解釈されるメッセージの発信を招くことになった格好だ。
ただ同冊子に関しては、働く母親に対し「同僚への感謝と配慮を忘れないように」といったアドバイスや、「夫が我慢している」という意見が掲載されている点、さらに同冊子内にある男性向けの記事には“よくばり”というワードがないといった指摘など、ここに来てタイトルだけでなく内容に関しての批判も、多くあがっているようだ。
家事育児仕事の両立を『よくばり』呼ばわりしたあげくワーママは全方向に配慮して働けと。このページがもっともおぞましい。なぜ気を使う先に旦那がいる。「夜泣きがうるさくても我慢してる」「多少は手伝ってる」「お願いは具体的に」「大げさに感謝するとパパもやる気を出してくれます」はっ倒すぞ https://t.co/OLqt6Nqorb pic.twitter.com/ATgZ2XPuU6
— すりごま (@surigoma2012) November 30, 2021
「よくばり」という題名とこのページはキツイですね。こういう周囲は確かにいるし乗り越えるライフハックは時として必要だけど、周囲の反応を心無いとせず、あたかも当然であり働かせてもらってる「よくばり」な女性が「感謝と配慮」を忘れるなと「自治体」が言っちゃうのが地獄みあるんだと思いました https://t.co/tDjBbcQQF5 pic.twitter.com/EzXTsMf0aN
— § 佐藤倫子 (@sato__michiko) November 30, 2021
これ、何がキツいって、全文ダウンロードした中にあるパパ用のハンドブックには「よくばり」って入ってないんだわ。 https://t.co/ndLDdeWJku
— らめーん (@shouwarame) November 30, 2021
しかし、その反面では「制度の紹介がよく纏まっている」「情報量も見易さも大分良くできてる」などと、一部の表現は置いとき、この手のガイドマップとしてはひじょうに出来が良いのではという意見も。廃刊に追い込まれるのは惜しいとの声もあがるなど、冊子自体の評価に関しては様々な見方が飛び交っている状況だ。
【所感と提案】
大炎上していますが、全てに目を通したところ、タイトルの「よくばり」とP26のワーママ心構えを除いては制度が非常によく纏まっており、広島県と言わず日本全体で活用すべきと思うほど良いガイドブックでした。決して廃盤にはせず、良くない点を改訂しより良いものにされて下さい。 https://t.co/lRPclPGYAE— 外資金融ママ☀️ (@fin_workingmom) November 30, 2021
コメントしました。
冊子全体は労働者の権利や法制度を丁寧に解説し、男性の家庭参加を前提とした良い内容でした。
サブタイトルと一部のページを直せばほかの自治体でも活用できる。https://t.co/XrZBJnjN93「働く女性応援」小冊子“よくばり”に批判— 治部れんげ/ Renge Jibu (@rengejibu) December 1, 2021
絶賛炎上中の広島県「よくばり」冊子、ざっと中身見たけど、情報量も見易さも大分良くできてると思う。が、それはそれとしてやはり言葉選びはまずかったろう。現にキャリアと家庭の択一にさらされてる立場として、カチンとくるのはよくわかる。
— くまたつ (@Y61WtpOH0P2E0KF) December 1, 2021
“よくばり”のフレーズは頑なに変えない方針か
今回の炎上を受けて、広島県の湯崎英彦知事は「女性向けのハンドブックだったので、切り取られると、女性がそういうふうによくばりと誤解を生んでいるのかな」と発言。“よくばり”というフレーズは女性に限らず、すべての県民に対して肯定的に使用している、と釈明している。
また、同冊子の制作に深くかかわったとされる県の働き方改革推進・働く女性応援課は、男性の育児参加に関する表現などについては検討していくとしながらも、問題視された“よくばり”というフレーズについては、「本来のメッセージを丁寧に説明していきたい」とし、変更の予定はないとコメント。この期に及んで渦中の表現を変える気が無いという謎の固執ぶりが、ネット上ではさらなる反響を呼んでいる。
「よくばり」というフレーズについては「本来のメッセージを丁寧に説明していきたい」と述べ、変更の予定はないとしつつ、男性の育児参加に関する表現などについては検討していく考えを示した。
「よくばり」というワードにそんなに固執するの何で?????何か理由あるの???????? https://t.co/Y78a0dJOZi
— たけみ@姉妹2y&4m (@takemimata) November 30, 2021
表現こそ直した方がいいはず。
表現は「一番外側の価値観」なので、ここ直さないと「あぁ、やっぱりそういう考えね」と思われてしまう。> 「よくばり」というフレーズについては「本来のメッセージを丁寧に説明していきたい」と述べ、変更の予定はないとしつつ、 pic.twitter.com/SWPGBaEFIO
— 佐野創太@1月5日「会社辞めたい」ループ(2022年1月出版@サンマーク出版) (@taishokugaku) November 30, 2021
説明云々では無く、キャッチコピーとして伝えたい意図と真逆の反応が返ってきてることはシンプルに「失敗」ですわ。何年も使ってて受け入れ難いのかもしれないけど。頑固すぎて笑った。
仕事家事育児を頑張ってる「上司の娘や妻」に、あなたはよくばりって言えるんか?言えなくない?言うの…?
— ホットクック(黒) (@Blackhotcook) November 30, 2021
このように広島県側が頑なにこだわる“よくばり”という表現だが、そもそもワークライフバランスとは、男女の違いを問わず“欲張って”実現するものではなく、ごく“当たり前”にそうならなければいけないという点で、そもそもそぐわないのではといった意見は多い。
さらに知事をはじめとした県側は「意図が誤って伝わった」という、どこかで聞き覚えのあるような言い訳に終始しているが、仮にメッセージが誤って伝わったすれば、その時点でキャッチコピーとしては失敗だという指摘も。今後、同冊子は今回の批判を受けて修正されるようだが、その際に“よくばり”という表現はどのように変化するのか、あるいは変わらないのか、大いに注目が集まるところである。
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