昨年7月に行われた東京都議会選挙の際に、維新が掲げたという「都営住宅廃止」のマニフェストが、ここに来て改めて注目される事態となっている。
次の参議院選で、日本維新の会は首都圏に大量の候補者を擁立すると息巻いていますが、都議選での公約の一端をご覧下さい。「都営住宅は廃止・民間売却」するようです。 pic.twitter.com/YKAEz1CEac
— ryozanpaku (@gnpthnt311) January 31, 2022
SNS上で取沙汰されているのは新聞の切り抜き記事だが、東京維新の会のサイトに掲載されている「2021 都議選マニフェスト~『コロナ敗戦』から立ち上がる 維新八策~」を見ると、確かに“都の二重行政解消!~民間能力の徹底活用~”と銘打って、都営住宅に関しては全て民間売却あるいは民間委託と記されている。また同様に公団公社・都営交通・水道事業の民営化も訴えているようである。
「またハズレ」依然需要が高い都営住宅
昨年の衆院選では30増の41議席を獲得し、一人勝ちとも称された維新。2022年は夏に参院選が行われる予定だが、維新はそこでも党勢拡大を目指し、首都圏をはじめとした関西以外の地域にも積極的に候補者を擁立するようだと、大いに噂されている状況だ。
その際に、維新は上記のような都営住宅の廃止や、都営交通・水道事業などの民営化を掲げて来るのでは……というのが、ネット上の一部から浮上している見方。現に、維新が行政の主導権を握る大阪においては、2018年に大阪市営地下鉄が民営化されるという“実績”もある。
ただ「都営住宅の廃止」に関しては、すでに多くの反対意見があがっている状況。公団ならともかく、都営も含めた公営住宅といえば、低所得者層に向けた社会福祉の一環という側面もあるだけに、その廃止はいわゆる福祉の切り捨ても同然。年金で暮らしてる高齢者、傷病などで生活保護を受給しながら住んでいる人々はどうなってしまうのか……というのが主な理由だ。
都営住宅には年金や生活保護で暮らす多くの貧困層が住んでいます。それを廃止したらどうなるか、維新はわかっているのでしょうか。 https://t.co/umgVYzJBrv
— 町山智浩 (@TomoMachi) January 31, 2022
都営住宅を売り払って、民間資本に売却すれば一時的に東京都は潤うだろう。高騰する都内マンションの価格も少しは下がるかもしれない。しかし、今まで都営住宅に住んでいた人はどこへ行けばいいのだ?これから家族を作っていく若い夫婦は一体、どこに住むのだ?国民年金だけで生きる高齢者は?
— ryozanpaku (@gnpthnt311) January 31, 2022
これ一つでも維新はアウトです。貧困と住宅問題が大きく関わっていることは何年も前から指摘されています。そもそも都民の中にどれだけ都営住宅の要望があるかも掴んでいないということ。 https://t.co/JMEnd1BQOw
— いさ哲郎 JCP中野区議会議員 (@isatetsurou) January 31, 2022
住宅に困っていることにくわえ、世帯収入が定められた基準内であること、また単身者向けだと60歳以上といった縛りもあるなど、入居条件の厳格さでも知られる公営住宅。ただ、その家賃は同地域の水準と比較しても安いとあって、入居を希望する人は相当多く、SNS上ではそういった人々からの「都営住宅またハズレ」「一生当たらないわこれ」といった声が多く見られる状況。
都営住宅またハズレ、もう6年くらい経つ。本当に厳正な抽選してるのかねと思うレベル。そんなに倍率高くないところばかりなのに。
— ojiiiii (@mu_7411) January 8, 2022
都営住宅廃止って、16回申し込んでやっと入居できた人を知っている。
民間のマンションやアパートの賃貸高いから、申し込んでるのに!
金持ちだけ優遇して、日本はよくなるのか? https://t.co/SIZpnz7EIj— すずめっち (@sparrow0725) January 31, 2022
都営住宅の抽選闇すぎるでしょ
一生当たらないわこれ— だたろちゃん! (@da__taros) January 13, 2022
いっぽう最近では、公営住宅に入居しようにも、保証人が見つからずに入居ができないという事案が全国で相次いでいるということから、東京都も含めた各地の自治体で、保証人確保の規定を廃止するところが増えていると報じられたことも。
設備の老朽化が問題となっている水道事業などと同様、公営住宅が行政にとって決して軽くはない負担であることも分かるが、とはいえ現時点では上記のように入居希望者が後を絶たず、さらに民間の賃貸住宅はなかなか借りれない“住宅弱者”も増えている状況。となれば、現状の維持はもちろん更なる拡充も大いに期待されるところで、逆にその廃止を訴えている維新の公約に対して、異論が続出するのは無理もない話だろう。
中間層&最下層からは支持を集める可能性も
このように今のところネット上では批判殺到といった格好の「都営住宅廃止」公約だが、意外にも支持を広げる可能性があるでは、との見立ても。その背景にあるのが、一部の都営住宅における“良すぎる立地”だ。
第二次世界大戦、さらに遡れば関東大震災などの被災の影響によって生じた住宅不足の問題が、日本における公営住宅事業の端緒。それだけに都内においては、広尾や青山などといった、今では超一等地とされる場所にも都営住宅が存在し、そこに住み続けている方も多いという。
このような現状に対して妬み嫉みを抱いているのが、都心の一等地には到底住むことができないサラリーマンなどの中間所得層で、そういった人々からは「都営住宅廃止」は一定の支持を得るのでは……といった見方も、ネット上では大いに取沙汰されている状況。いっぽうで、それよりも貧しい最下層においても、都営住宅の住民が甘受する“優遇”に対して苦々しく思う者もおり、そういった人々からも支持を集めそうとの声もあがっているのだ。
住まいは権利!民間物件を国が借り上げて公営住宅を増やそうと掲げるれいわ新選組とまったく別の政策。しかし、都営の広尾や戸山住宅のような一等地に安い家賃でずっと住み続ける高齢者はズルい!と考える人は多く、都営住宅廃止売却政策は中間所得層に支持されるでしょう。 https://t.co/NxhR2kn05O
— 木下ハヤト 住まいは権利!元れいわ新選組南関東比例候補者 (@19820707hayato) February 1, 2022
都営住宅の民営化は、不動産業界は大歓迎でしょう。しかしそれによって家賃は高騰し、家賃を払えなくなって立ち退きを迫られる住人が続出することでしょう。それを見て「ざまあ見ろ」と溜飲を下げる最下層の人々は、維新を支持することでしょう。 https://t.co/iNeft241kn
— 佐原 (@kohsawara) January 31, 2022
東京は裕福な人が多いから、むしろ支持を集めそう。この国には我々貧乏人は生きる事を許されてないんだよなぁ…
— daneishe (@daneishe888) February 1, 2022
維新の支持層といえば、先日立憲民主党の菅直人元首相が自身のツイッターで「維新の『役人天国』批判に低所得者層の人達が共鳴し、支持を広げたとの分析が有力」と投稿したことが話題となったが、そのいっぽうで先の衆院選においては、中間層からの支持を集めたことが躍進に繋がったとの指摘も多い。ぱっと見だと、あまりにも筋が悪すぎるようにも感じる「都営住宅廃止」だが、維新的には上記のような2つの“お得意様”から、それぞれ違った意味合いではあるものの、ともに共感を得られるという、ある意味で効率的な公約だと言えそうである。
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